さて、特にクリエイターを目指す学生にとってたいへん意義深い記事を見つけました。4Gamer.netで紹介されていた、こちらです。(記事そのものが載っているサイトは、gamesindustry.biz日本版)
ここでは、英国の学校(大学院レベル)の例が紹介されています。学則で「学生は全ての権利を学校に譲渡する」と規定しているため、実習で作られた作品の著作権は全て学校側のものになり、卒業生が在学中に手がけた作品をビジネス化したい場合、お金を払って著作権を買い戻さなければならないというのです。
「なんだって? なんてひどい学校なんだ!」
と、日本なら炎上しそうな話ですが、この記事はそういう方向性のものではなく、そんなシステムが導入されている深い理由と、学生が直面する権利の問題を、立体的にまとめたものでした。
日本の学校ではどうかといいますと、特に規定を設けていないところが多いのではないかと思います。
この問題、裁判で争われたことがあります。訴えたのは、大阪にある専門学校の卒業生。学生時代に作ったCG作品を広告や広報媒体で使ったことに対して、出身校に損害賠償を求めたという事件です。(平成15年12月18日大阪地裁判決/事件番号:平成14年(ワ)第8277号)
日本の著作権制度では、創作と同時に権利が発生します。創作性があれば著作物であり、高度な創作である必要も年齢制限もありません。おちびさんのクレヨン使ったお絵かきまで、著作権の対象なのです。そして職務著作の場合を除き、著作者がそのまま著作権者になります。なので、学生作品だからといって、否定のしようがありません。
ところが法廷で学校側は、次のように反論しました。
- デザインも演出もありきたりなもので、創作性がない
- 講師の指示をうけて作ったものに過ぎない
- 学校の機材やソフトを使って作っている
- この作品は学校側主催のコンテストに応募しており、
「応募作の著作権は主催者に譲渡」と募集要項中にあるから、
すでに権利は学校のものである。 - そもそもこれは「映画の著作物」だから、
著作者は「全体として制作した者」=学校である
まず1で著作物であることを否定、それが認められないとしても著作者は原告ではないと2で主張、また仮に著作者だとしても著作権は学校のものだと、3以下で展開したわけです。
この反論、正直に言って「開いた口が塞がらない」レベルの呆れた主張だと思います。法的なナンセンスさもさることながら、教育機関としての誠実さも、クリエイターを育成する学校なら当然持っているべき創作に対しての敬意というものも、全く感じられないのです(特に4なんて、だまし討ちみたいなものですよね)。全体に感じるのは「学生の分際で生意気言うな!」という、旧昭和的な権威主義。判決書の被告側代理人の欄には、12人もの弁護士の名前が並んでいて、その報酬だけで請求額(100万円)の何倍もかかりそうなものですが、何が何でも叩き潰してやるという断固たる悪意を感じるのです。
気になる裁判結果ですが、裁判所は学校側の主張を全て一蹴、この実習作品が著作物でありかつ学生が著作権者であることを認めました。ただ、広告等での使用について黙示の同意があったことも認定、損害賠償は認めませんでした。この人は卒業後非常勤講師として勤務していたのですが、そのときも特に抗議しなかったというのが、根拠です。この判決に対して学校側が控訴したかどうかは記録がありません。ただ、「在学中に制作した作品の著作権は全て学校側に帰属するものとします」なんて形で、学則の方をいじった可能性はありますね。
ということで呆れた学校もあったものですが、さりとて私立学校にとって、広報の重要性は言うまでもありませんし、また「そら見ろ、去年の課題の最優秀作がこれだぞ」なんて形で先輩の作品を見せることも、授業効果においてたいへん高い意義を持っています。
私が教員をしている学校(※名古屋工学院専門学校;公開当時)では、学則ではなく、入学直後に交わす承諾書で対応しています。そこでは「著作権は学生のものです」とはっきりうたった上で、広報など特定目的の場合に使用を許諾することを、保護者様との連名で了承してもらっているのです。嫌ならば断れるし、後からでも承諾を取り下げることができることも明記した、フェアな仕組みです。
小中高校生は生徒ですが、大学や専門学校は学生です。生徒に対して必要なのは何より愛情かもしれませんが、学生に対してはやはり敬意が必要です。この仕組みを実現した当時は、そうした理念と現実の要請とをうまく調和させたものだなんて自画自賛していたのですが、上記の記事を読んで、意外な盲点もあることを知りました。
まあなかなか難しいものですね。
2020年4月公開
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