民事法務

 マネジメントとマーケティングの大御所として知られるP.ドラッカーは「ドリルを買いに来た顧客のニーズは『穴』である」という言葉を残しました。ドリルそのものを売ろうとするのではなく、穴という目的に注目して解決策を提案せよという意味です。
 同じように、士業のもとを訪れる顧客のニーズは「**士に依頼すること」ではありません。それを通じて実現を図りたいこと=目的があるのです。このことは、他の法領域でも同じですが、契約を中心とした民事法務においては、ビジネスとしての合理性が求められるだけに、とりわけ重要になると思います。そして、起業したばかりのような場合には、穴を開けたいのか釘を打ちたいのかすらも、はっきりとしていない場合が少なくないでしょう。
 当事務所としては、法定業務としての文書だけにとらわれることなく、それを通じて依頼主様が実現したいと思っているビジネスの方に注目していきたいと考えています。

契約

起業

通知

○契約

 社会は、さまざまな約束によって成り立っています。その中で、法律で守らせる価値のある約束を「契約」と呼びます。
 多くの契約では、当事者双方が一定の権利と義務を持つ関係になります。例えば物を作る請負の場合、発注主はできあがった物を受け取る権利を、受注業者は作って納品する義務を、それぞれ持ちます。そして反対向きには、代金についての支払う義務と受け取る権利があるわけです。
 このとき重要なのは、その内容です。どんな物を作れば義務を果たしたことになるのか、そして代金はどういう形で支払われるのか、それが明確に決まっていないといけません。
 契約は、あらゆる市民の生活全てに関わってきます。例えば買い物するのも電車に乗るのも、みな契約です。私達は、コンビニでお菓子を買う時にいちいち契約書を交わしたりはしませんが、その場で売買契約を結び、実行しているわけです。また、電車については、鉄道会社が全顧客に対して一律に適用するよう定めた「約款」があり、その内容によって権利義務が規定されています。マスを対象にした新しいビジネスでは、適切な約款を作る必要があります。

・契約書

 民法上、契約は双方の合意だけで成立します。なので契約書は必須ではありません。実際、作らないことが当たり前の業界もあります。
 とはいえ、業種ごとの壁が薄くなり、また地理的条件も決定的ではなくなったこんにちでは、カルチャーを共有しない当事者で組んで仕事をする機会も格段に増えています。どのような分野であれ、作るのが当たり前と言えるでしょう。
 契約書の内容は、双方が話し合って合意で決めていくことが原則です。しかし実際には、発注する側が提案し、受注する側が了承して署名捺印するという場合が多いでしょう。そのような場合でも、内容に関する理解は必要ですし、また合意できない内容がある場合は、交渉して変更してもらうことが大事です。

・テンプレートではだめな理由

 世の中には、多数の契約書テンプレートが存在します。インターネット上で簡単に検索できますし、テンプレートを集めた分厚い書籍も刊行されています。しかし、使おうとすると、ほとんど役に立たないのが現実です。
 なぜそうなのでしょうか。それは、実際に解決したい問題とずれているからです。
 契約書は、取引などの関係をはっきりさせるために作成するものです。そこでの主役は取引の方で、それは本当に千差万別です。ところがテンプレートの目的は、ただ契約書を作ることだけにあります。手段であるはずの契約書が、目的になってしまっているのです。
 ここでしばしば行われるのが、「契約書に取引の方を合わせる」というもの。これは本末転倒もいいところです。また、例えば業務委託契約なのに、ライセンス契約でしか使われないような規定が並んでいたりするような、あきらかにそぐわない書式の契約書が作られてしまうこともあります。このような、無益以上に有害なものがまかりとおるのも、当事者の目的意識が「契約書を作る」だけに固着してしまっているからでしょう。

・公正証書での契約書

 遺言のところでも触れた公正証書ですが、これは遺言に限定した制度ではなく、民事法の領域全般に対応しています。契約書では、例えば任意後見契約や定期借地権契約のように、公正証書で作ることが義務づけられているものもありますが、そうでない契約書でも、当事者の合意があれば作ることができます。
 この場合、「この人とこの人が、こういう内容の契約を、いつ結んだ」ということを、公職者である公証人が証明してくれるため、裁判での高い証拠能力を持つことになります。しかし、実は公正証書のポテンシャルはそんなものではありません。公正証書には、差押えなどの強制執行を可能にする「債務名義」としての効力があります。通常は裁判の確定判決などが必要なのですが、公正証書があれば単独でできてしまうのです。
 強制執行というのは、単に「財産を差し押さえられる」というだけの問題ではありません。例えば住宅ローン契約には「期限の利益喪失条項」があり、これが適用されると残額をまとめて返済しなければなりません。そして担保物への強制執行は、この条項に該当するのが通例です。住宅ローンの残高を一気返済できるような人はまずいませんから、その効果は破滅的。いわば取引社会のレッドカードのようなものになるのです。このような強い力を持っていることから、相手方としては遵守しなければならない強いインセンティブが働き、高い実効性を伴うことになるわけです。
 例えば義理があって断りづらい、かつ今ひとつ信用しきれない相手から「金を貸して欲しい」依頼があった時、公正証書での契約書を条件に応じるという手があります。これを踏み倒したのでは以後まともな社会生活が営めませんから、相手も最優先で返そうとするでしょう。そして最初から踏み倒すつもりの申し出なら、依頼自体を取り下げてくることでしょう。

・当事務所ができること

 契約書の文案を作成します。また、取引先から送られてきた契約書をチェック、アドバイスします。例えば創作分野では、個人クリエイターは依頼を受けて取り組むことが多いと思いますが、会社あるいはインディーズとして活動する場合だと、自分の方から依頼することもあるでしょう。当事務所は、どちらの場合にも力になります。
 公正証書での契約では、公証人への連絡なども含め、契約全体をサポートします。
 なお、当事務所では、スモールビジネスへの有効な対応を、優先的に心がけています。契約書については、一般人ベースでの「わかりやすさ」と「シンプルさ」が基本です。その分、大企業どうしのパートナーシップや、海外取引先との契約などの大型案件はカバーしていません。

○起業

 ビジネスは個人事業としても始めることができますが、ある程度のスケールを持つ場合は、会社などの法人を設立することが基本でしょう。
 法人は、法律で「人」としての地位を認められる団体です。権利の主体になれるということで、法人の名義で資産を持つことができますし、契約の当事者にもなれます。
 法人は、会社であれば商法(会社法)、一般法人であれば民法(一般法人法)に規定されています。また、法人格を持たない事業主体というものもあります。民法上の任意組合や商法上の有限責任事業組合・匿名組合などです。多くの場合、設立には決められた方式があり、それをクリアしていくことが必要になります。
 実際のところ、起業する人にとって重要なのは事業そのもので、法的手続きへの関心は薄く、また労力も割きたくないものと思います。どうしても最低限知っておかなければいけないこともありますが、細かい部分についてすべて自分でしようとせず、士業をはじめとした外部の機関をうまく利用することが肝心でしょう。

・会社と一般法人

 営利を目的に作られる法人を、会社といいます。会社法では4種類が定められていますが、新たに作る場合、株式会社と合同会社の2つが検討対象になるでしょう。合同会社は、数人の人間が集まって出資者兼経営者になるような小さなビジネスが想定されていて、設立手続も、また実際に設立してからの処理も、株式会社に比べると断然楽です。実際にも中小企業が多いのですが、株式を発行する気がなければ別に巨大企業であっても構わないわけで、例えばアップルなど、外資系の日本法人などの多くは、この形態をとっています。なお、かつて存在した資本金の違いは、現在はありません。
 一般法人は、営利以外の目的が想定されている法人です。必ずしも非営利に限定されないものの、出資者への配当が許されない点で会社と区別されます。一般社団法人と一般財団法人があります。
 これ以外にも、特別法で規定された法人が多数あります。学校法人、医療法人、宗教法人、特定非営利活動法人(NPO法人)などです。また、特に公益を目的とする法人は、監督官庁の認可によって公益法人(公益社団法人と公益財団法人)になることができます。
 法人の設立には、官庁の許認可を必要とする(=認めるかどうかは官庁の裁量行為)場合と、基準を満たして届出すれば必ず認められる場合とがあります。会社や一般法人は後者で、公益法人やNPO法人などは前者です。

・会社と一般法人の設立

 会社は、法務局に申請した設立登記が終わることで、成立します。そのために必要なものは、定款です。会社にとっての憲法みたいなもので、目的/商号/本店所在地/資本金/発起人の住所氏名など、会社に関する概要を定める文書です。一定事項は必ず定めなければいけませんし、また、定めていないと効力を発生しない事項もあります。株式会社の場合、作成したものについて公証人による認証を受ける必要があります。
 一般法人もまた、法務局に登記申請を行うことで作ります。そして同じように定款が必要です。一般社団法人と一般財団法人とでは、基本財産の要否や役職の名称や必要とされる人数などあれこれと違いがありますが、そもそも両者は「人」と「財産」のどちらに注目しているかで分けられているものです。社団では特定の目的のための人の集まりが、財団では同じく財産が、それぞれ想定されているのです。
 これらの設立にあたって実際に揃えなければならないものや具体的な手順などは、さまざまなサイトで丁寧に説明されているので、ここでは割愛します。

・知り合いへの相談は危険がいっぱい

 独自の新しいビジネスには独自の約款が必要になるのですが、これを作る過程で不用意に外部の力を借りようとすると、ビジネスアイデアの流出のリスクが発生することには、注意が必要です。
 例えば知り合いへの相談。頼りになると思ったからこそ相談するわけですが、頼りになる人というのは、他の人からも頼りにされる人で、必然的に顔が広いです。また、相談された内容について別の人に相談するなんてことも、よくあります。そして、こういうところから秘密は漏れていくのです。極端な場合「フォロワーの皆さん。ぼくの後輩でこんなビジネス構想している子がいるんだけど、約款で困ってるようなんだ。誰か力を貸してくれない?」などとSNSで呼びかけられて、せっかくのアイデアが全国数十万人に暴露されてしまうなんて事態も起こり得ます。
 士業には、秘密保持の義務が課せられています。もちろんたちの悪い人間はどこにもいるので「士業だから安心」とは言えませんし、案件のセンシティブさに気づかないまま第三者に漏らしてしまう新ビジネスへの感度が低い士業もいるでしょう。ともあれ重要なのは、相手を選ぶということです。

・当事務所ができること

 一般的・包括的なアドバイザー業務の他、法人設立のための定款や就業規則などの文書作成が受任できます。また、ビジネスに応じた約款の作成も行います。
 なお、法人設立事務の中心には、登記があります。民法上の任意組合であれば契約だけで成立しますが、他は概ね登記が必須となっているからです。登記は司法書士の専管業務で、それ以外の者が代行することはできません。そのため、起業支援のこの部分については、ご自身で進めていただくか、司法書士に別途依頼するかということになります。当事務所を通じて、協力関係にある司法書士に依頼することもできます。

○通知

 トラブルの予防は、法務にとって大きな目的です。しかし、どんなに入念な対策を講じても、残念ながら全て予防というわけにはいきません。実際に発生した場合には、適切に対応していく必要があります。
 ここでの「適切」には、進行段階と手段のバランスという面もあります。
 例えば国同士の紛争の場合、遺憾の意の表明から始まり、非難の応酬や外交使節の引き上げなどを経て、軍事力をちらつかせながら威嚇、さらにこれみよがしな軍事演習をしたり、小規模な部隊を紛争地域に繰り出したり…といったように、段階的に進むものです。敵首都にいきなりミサイルを打ち込むなんてことはしません。
 通知の送付というのは、この例で言うと、“遺憾の意の表明”から“軍事力をちらつかせながら威嚇”あたりで使われるものです。また、実行方法という点でも、段階によって適切なものが変わってきます。“遺憾の意”段階であれば電話やメールで間に合いますが、“非難の応酬”あたりではもっとフォーマルな形式が求められるでしょう。
 いわゆる「法的措置をとる」というのは、具体的には裁判所への訴えとなるわけですが、これは国際紛争でいえば開戦してしまった状態といえます。そこに至る前の解決が、多くの場合望ましいものになるでしょう。

・断固たる意思を示す、内容証明郵便

 自分の意思を相手に伝えるためには、通知が必要です。ただ、相手の眼の前で読み上げるのなら別ですが、送っただけでは伝わるとは限りません。不着あるいは先方が気づかない可能性もあるからです。そして悪意ある相手なら「そんなもの知らん」としらばっくれてしまうこともあるでしょう。
 内容証明郵便は、出した手紙の内容と日付について、郵便局が第三者としての立場で記録を残してくれる郵便です。これを利用した場合、手紙のコピーが郵便局で5年間保管されることになり、裁判のとき「いつ、こういう内容の通知を出した」という証拠として提出することができます。
 これは、実際には、発信者が自分の断固たる意思を示す手段として用いられます。「もしこの警告を無視したら、次はもっと強硬な手に出る」という内容を通じて、“うやむやには終わらせないぞ!”という意思を示すわけです。
 例えば、契約に従って納品していながらいつまでたっても支払いがないとか、貸した物が期限になっても返してもらえないなどという事態があったとします。こんなときの相手の考えは何でしょうか。あえて言い切れば、「忘れている」「こっちが忘れていると思っている」「どうせ何もしてこないとたかを括っている」の3つです。また「何があっても払わない/返さない」と決意を持っている人というのは少なく、単に優先順位として下に扱っているだけに過ぎない場合がほとんどです。
 このようなとき、内容証明郵便が効果的です。特に、士業の職名を使って出すものは、「既に専門家への相談を始めている」という無言の主張にもなり、より強い警告の効果を持つといえるでしょう。

・内容証明郵便の応用分野

 特に相手が警戒すべき存在である場合、内容証明郵便の証拠としての機能が大きな意味を持ってきます。
 例えばクーリングオフの通知があります。特定商取引法などで規定されたクーリングオフの通知は、書面で行うことと定められていて、消費者庁のWebサイトでは、簡易書留ではがきを送ることが推奨されています。しかし、そもそもこういう通知を出さなければいけない相手が、それで素直に引き下がってくれるとは限りません。書留は「送った」という事実を証明するだけです。「確かにその日に受け取ったが、はがきにクーリングオフの意思は書いていなかった」と言われたらどうでしょうか。裁判では、事実を主張をする側が証拠を提出することが必要なので、最初から騙すつもりの業者が相手になる場合、なるべく強い証拠能力を持つ通知を用意しておくことが重要です。この点、通知内容が保管されている内容証明郵便は強力なのです。
 同様な例として、ブラック企業に対する退職届や賃金未払い請求などが挙げられます。このような場合は、特に自分の側の強い意志を示す必要があり、内容証明郵便の使用は有効な手だと言えるでしょう。

・「弁護士さえいればいい」わけじゃない理由

 法的な狙いを持った通知の背景には、「トラブル」が存在していると言えます。はっきりと現在進行系のトラブルの場合もあれば、それが予想されるという場合もあるでしょう。
 士業において、トラブルの専門家は弁護士です。行政書士にできることは通知の発送までで、最後の法的手段の実行はもちろん、相手方との直接交渉なども弁護士の独占業務に入ってくるのです。では、通知の時点から弁護士に依頼したほうが、ひと手間少なくて済むのではないでしょうか。
 もちろんそれでもいいのですが、決断の前には、弁護士と行政書士の違いを理解しておいて欲しいと思います。
 弁護士は争い事の専門家で、「依頼主の利益の最大化を図る」という職業倫理を持っています。つまり、相手方と戦う仕事なのです。一方、行政書士は争い事への参加ができないことから、発想も自然と円満解決志向になっており、戦うことをなるべく回避する傾向があります。もちろん実際の取り組みは人によってまちまちなのですが、「相手を完膚なきまで叩きのめす」ようなことは考えず、むしろ双方にとって利益となる着地点を意識する傾向があります。双方が納得した上での示談書作成は、業務にできるからです。
 もう一つの問題が費用です。報酬額というのも事務所によってまちまちなので、安価な弁護士事務所もあれば、高額な行政書士事務所もあるでしょう。ただ、弁護士の相場感vs当事務所の請求例ということですと、絶大な差があることは事実です。弁護士は、士業の中でも別格の存在で、圧倒的に高水準の法的能力を持っています。仕事=時間を拘束するということで、高度なプロフェッショナルに高いお金がかかるのは、ある意味当然のこと。それが相場に反映されているのです。
 単に法律家としてみた場合、弁護士は行政書士の上位互換です。しかし、そもそも実務家としては狙いが違うのです。用途に適した選択が、重要でしょう。

・当事務所ができること

 文書の作成は行政書士の法定業務なので、権利侵害の警告文をはじめとした様々な通知文の文面作成に対応しています。
 内容証明郵便の場合、ご希望に応じて、当方の職名において作成&通知することもできます。この場合発信元は当事務所となり、依頼主様の名前(本名)や住所については必ずしも記す必要はありません。なので、例えば芸名や筆名を使っている場合なども、その名乗りのままで警告文を発することも可能になります。