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PC選びの顛末(続)

 そのようなわけで、結局買わずに済ませてしまったわけですが、こういうポジションでパソコンに取り組んだことがずいぶん久しぶりで、なんだか懐かしい気持ちになりました。
 昔は、もっと頻繁に買っていました。特に現役のゲームクリエイターだった頃……OSで言うと、MS-DOS全盛期からWindows95の頃ぐらいまで。当時のパソコンは陳腐化が早くて、気持ちよく使っていられるのは3年程度だったのです。デスクトップとノートPCそれにMacまで持っていましたから、ほとんど毎年買い替えていたようなものです。他の買い物と違って、パソコンの場合、勉強が必要です。世の中には新しいテクノロジーが次々と出ていて、パソコンにも実装されていくのですが、実際にはその全てが生き残れるとは限りません。うっかりすると、使い物にならない機能を満載したマシンを高づかみしてしまうかもしれないわけで、しっかり吟味する必要があったのです。でもそういうのが苦労だったのかというと(まあお金の面には目をつぶるとして)、そうでもないんですね。あの頃、パソコンを買うときには、やはりトキメキがあったように思うのです。
 今から振り返ると、あの時代のPCは、かなり不完全な道具でした。絶対的なマシンパフォーマンスが不足していたので、なにかの機能を実現するためには、別の機能を切り捨てる必要があったのですね。でも、そんな制約にこそ、デザイナーの腕の見せどころもあったと言え、各社からそれぞれの思いを載せた多様なマシンが製品化されていました。

当時のPC環境
当時のPC環境です。C1は写ってませんが(画質から見て、たぶんC1で撮ってます)。

 多くのマシンの中で、いちばん印象的だったのがVAIOです。ソニーらしく、マシンもアプリも美しいものだったのですが、単に外観がいいというだけではなく、「コンピュータの新しい使い方」をその都度提示してくれたのです。とりわけ印象に残っているのは、VAIO C1。キーボードとジャストサイズの筐体で、折りたたむと片手でつかめるほどのコンパクトさ。「初めてカメラを装備したPC」としてパソコン史に残る存在でもあり、ムービー編集やイフェクトのアプリも付属していて、これ単体でちょっとしたムービー作品が作れたのです。もしその頃にYoutubeがあったら、数多くのメイド・イン・C1な作品がアップされていたことでしょう。現実には各ユーザーのハードディスクの中に埋もれてしまったわけで、時代をさきがけすぎたゆえの残念さですね。
 さて、既にGramは私の手元に戻ってきています。修理期間中は、iPad+外部キーボードで乗り切ろうともしたのですが、思った以上に使えなくて、辟易しました。やはり文章はPCなのです! 既にオン/オフを問わず、ほぼ常に持ち歩いています。実は、こうした「どこでも一緒」を始めたのも、VAIO C1からでした。それまでのノートPCでは、バッテリーライフはせいぜい2時間程度で、外出時にはいつも電源の存在を木にする必要がありました。C1にはオプションの特大容量バッテリーがあり、装着すると一日中使っていてもびくともしないほどになります。この自由さときたら、まさに羽根が生えたような開放感だったのです。
 ムービー作成に比べると遥かに地味ですが、イノベーションというのはこういう地道なもののほうが、実際には効いてくるものだというのを、あらためて実感しました。

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