GIこと地理的表示保護という制度があり、愛知県味噌溜醤油工業協同組合というところが、生産団体として登録を受けました。ところがこの組合に当の老舗は入っておらず、その結果、近い将来に「八丁味噌」の名前が使えなくなってしまうというのです。これは不当だと老舗が行政不服審判を請求したのですが、結果は却下。そして、不服審判取消訴訟においても敗訴してしまいました。「訴訟提起ができる期間はもう終わっている」という木で鼻をくくったような理由で、加えて「2026年までは使用できる」「名称を使いたかったら県の組合に入ればいい」とまで言い放たれる始末でした。
知財の分野では、地域団体商標というものがあります。通常では認められない「地名+一般商品名」(例えば“松阪牛”など)という商標の登録を、一定の条件を満たした地域団体に対し認めるという制度です。“地域おこし”をサポートするため、2005年の商標法改正で導入されました。
今問題になっているGIは、知財ではあるものの、商標ではありません。法律の名前は「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」で、長すぎるので通常「GI法」と呼ばれています。既に同一趣旨の知財があるのにも関わらず、このような法律が制定されたのには、まあもっともらしい理由はあるのでしょう。ただ「役所の壁」というのが一番大きいようにも思えますね。元は国際条約に由来するのですが、この所管が農林水産省で、法律も農林水産省によって作られたのです。
それはそれでいいのですが、ならば「商標」とは異なる視点で判断しても良かったのではないかと思います。そもそもなぜこの会社が県組合にはいらないかというと、伝統製法の継承と折り合わなかったからです。県組合加盟会社で作られている八丁味噌は、近代化された合理的な方法で生産されており、材料(豆と塩と麹)も道具(桶)も、汎用的なもの。これを「そんなの八丁味噌じゃない!」とした老舗側の主張は、工業的経済合理性を重視する特許庁(=経済産業省)的な視点で考えれば、身勝手な言い分かもしれません。でも、農水省的な価値観では本来尊重すべきものだと思うのです。発酵食品というのは、例えばイタリアのチーズなどがそうなのですが、村ごとに別物になります。なのに「愛知県で売ってる赤味噌=八丁味噌」というのは、乱暴に過ぎるでしょう。
さて、このGIですが、申請先は特許庁ではないため、弁理士の専管業務にはなりません。行政書士もできる業務です。まあ現実問題として当事務所が担当することはなさそうですが、それでも本来的には自分のテリトリーですね。こうして大きな話題となる前にカバーしておくべき案件でした。
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