「漫画の“ネタバレサイト”運営か 著作権法違反の疑い 2人送検」(NHK2022年6月14日)
「漫画ネタバレ『文章のみ』増殖 著作権侵害で摘発も」(日経2022年7月2日)
ここでネタバレサイトと呼ばれているのは、「連載されている商業マンガのセリフを抜き出して内容がわかるようにしたコンテンツ」で構成されたWebのことです。セリフもまたマンガの表現の一部ですから、これを勝手に抜き書きすれば、複製権の侵害になります。著作権ホルダーが問題視している以上、違法なサイトということになるでしょう。
ただ、記事(の特に見出し)の書かれ方は、どうにも気持ち悪さを感じます。ネタバレ=ストーリーラインやオチなどがバラされてしまうことそのものを違法だと言っているように見えてしまうからです。例えば、日経7月2日の記事では、続く本文では、のっけから「漫画の内容を無断公開する『ネタバレサイト』の被害が後を絶たない。」なんて書かれています。しかし、著作権法が保護するのは実際に行われた表現で、そこに込められた思想やアイデアは保護の対象ではありません。この点でのミスリードを誘い、「ネタバレは著作権違反なんだぞー!」という都市伝説を根付かせようとしているような、邪な意図を感じてしまうのです。
そもそも、「ネタバレサイト」という言葉自体が、どうにも居心地が悪いですね。マスコミの事件報道というのは、通常、警察側発表をもとにしています。その警察は、著作権ホルダーの被害届をもとに立件を進めていますから、報道が“被害者”目線になるのも当然とは言えるですが、そこに導入する単語はもっと吟味してほしいと思います。
ただ、こうした記事の一方で、ファスト映画と目的において変わらないような内容の“ネタバレ”記事も、商業サイトには掲載されているのです。
例えば「スポニチアネックス」というニュースサイトには、「鎌倉殿の13人」を扱った2000文字ぐらいの記事が毎週載っているのですが、内容はというと、完璧なまでにあらすじ。セリフの抜き出しも入っています。
続き物のドラマの場合、途中から観てしまうとわからないということがあり、グローバルなあらすじのまとめは、それなりに価値があります。ところが、この連載記事は一話ごとに書かれている上、放映直後と言っていい、日曜日午後9時台にアップされているのです。そもそも対象作品は万人受けを求められるNHK大河ドラマで、追いかけきれないほどのプロットの複雑さや描写の難解さというのとも無縁です。どうみても「見忘れちゃったけど、めんどくさい。今話のストーリーだけは知っておきたい」という用途のためとしか思えません。NHK大河ドラマは同じものを土曜の午後には再放送するわけで、いわば劇場で公開中の映画に対するファスト映画のようなものですね。
大手新聞社のサイト上で大手を振って掲載されている以上、おそらく許諾はとっているのでしょう。そうなれば、合法です。ただ、その合法性は業界内での馴れ合いの結果で、市民的モラルとは別次元です。
「商業サイトならやっていいが、個人が自主的にやるのはダメ!」
おなじみのダブルスタンダードが、この「ネタバレサイト」問題にも出ているように思えるのです。