相続は、誰にでも必ずやってくる問題です。親が健在ならいつかは自分が相続人になりますし、そうでない場合も自分が次の代に財産を残す番が必ずやってきます。死亡時に資産と負債の差し引きがぴったりゼロ…なんて人はまずいませんし、「いや、私なんてたいしたことないから」なんて言ってる人の財産が、いざ金額に直してみると結構大きなものになっていたりすることも少なくありません。
一方で、問題は相続だけでもありません。その直前には、どのように最期の時を迎えるか―終末期医療・延命措置などの問題があります。ご本人が希望を持っている場合、その実現を図ることは重要でしょう。
そしてさらに前にある大きな問題が、認知症です。単に認知症になったというだけでは法的な保護は得られず、不当な契約を結ばされ、財産を大きく損ねてしまうリスクがあります。その一方で、認知症によって銀行口座が封鎖されてしまうことがあり、こうなると日常生活にも困ります。これらの決め手となるはずだった成年後見制度は行き詰まり、それに代わる制度は現れていません。
家族関係法務は多岐にわたるものですが、当面の大きな問題は、やはりこのあたりにあると言えるでしょう。遺言・相続・認知症対策さらにはエンディングといったものです。「国民の権利利益の実現に資する」ことを任務とする行政書士として、当事務所も第一の業務に掲げ、積極的に取り組んでいきます。
○遺言
遺言の本質は「想い」です。誰しも持っている、家族や社会に対する想い。それを、死後の財産帰属の指定という形で文書にすることが、遺言という行為の本質になります。
想いは人それぞれです。家族の中の特定の人に報いたいという想いもあれば、「みんなで仲良くしてほしい」という想いもあるでしょう。また、不意の相続発生があると、残された家族は大きな混乱に見舞われますが、そういうときになるべくつらい思いをしてほしくないという想いもあるはずです。
社会に対する想いも人それぞれです。世話になった人や団体、あるいは応援したいと思っている理念や組織など、さまざまな想いもあるでしょう。あなたが有意義に感じている活動があったとして、それを担う団体にお金が届けば、想いは現実の力になります。
遺言がなければ、故人の財産は、法律の規定に従って機械的に分配されます。もし形にしたい想いがあるのなら、例えまだ当分先の話だとしても、遺言を遺しておくべきなのです。
・遺言で注意すること
遺言を書くことは簡単です。いつでも自分一人で自由に作ることができますし、内容を変えたくなったら新しいものを作ればそれで良く、手続はありません。ただ書き方にいくつかのルールがあります。
まず、自筆であるということ。ワープロで作成したものや、代筆や口述筆記などは、例外的な場合を除き無効です。近年の改正で、添付する財産目録については緩和されましたが、遺言書本文はいまだに自書が必須なのです(これも緩和が議論されていますが、実現はまだ先です)。
次に、押印が必要だということ。コロナ禍以降、政府方針は「書類一般において印鑑不要」となっていますが、こと遺言書は違います。実印でなくても構いませんし、申込書によくある“シャチハタ不可”の規定もありませんが、押印必須なのです。また、具体的な日付も必要です。「令和6年4月吉日」の書き方は、認められていません。
そして、単独で行っているということ。つまり、「夫婦共同で子供たちに想いを残す」などはできないということです。
また、条件付きの遺言については注意が必要です。例えば「この財産を長男に相続させる。もし長男が既に死んでいる時は次男に相続させる」というような条件は付けられますが、「先祖代々の財産を、処分したりせず守り通すことを条件に相続させる」というような遺言はできません。また、「いったんは妻に、妻の死後は次男に相続させる」といった、代をまたぐ指定もできません。
必要なルールを守らないと、遺言そのものが無効になってしまいます。また、あいまいな遺言は争いのもとにもなるため、注意が必要です。
・特定の人に財産を渡すために
遺言でしかできないことに、遺贈があります。これは、法定相続人以外の人に財産を分与するというものです。世話になった人や団体という場合もあれば、孫や息子の嫁など、法定相続分のない人に渡したい場合もあるでしょう。
また、遺言で行う場合が多いことに、「持ち戻しの免除」があります。推定相続人の一人が生前の贈与などを受けると、その分が相続時に対象財産に組み込まれ、遺産分割額からも差し引かれてしまいます。これを「持ち戻し」というのですが、遺言で免除することができるのです。例えば、長男が家を継ぐことを前提に、次男に家を建ててあげた場合など。法定の遺産分割を行うと、このような場合の次男の家は、いわば相続の前渡しのような扱いで相続分に組み込まれ、結果として次男の取り分は大きく減ってしまうことになります。遺言の中で持戻しの免除をしておけば、それを防ぐことができます。
・社会への想いを遺す、遺贈寄付
遺贈寄付は、近年注目されている財産の遺し方です。遺言の中で、特定の団体等に財産を遺贈する趣旨を書いておくというもの。「社会への想い」をストレートに形にしたものと言えるでしょう。
別に全額を寄付する必要はありません。財産のうちの一部であってもいいのです。例えば「市内の子どもたちに本をいっぱい読んでほしい」という気持ちから、地元の図書館に子供向け本の購入費用として、財産の中から100万円を遺贈するということも可能です。
遺贈寄付でだいじになるのは、受け取ってもらえるかどうかです。赤十字社やUNICEFなど著名な団体の他、各種NPO法人や自治体によっても受け入れいている場合があります。ただ、なにかしかの条件がついていることが多く、いざ実際にやろうとすると断られる場合もあります。そのため、事前の確認をとった上で、できれば遺言ではなく、死因贈与契約という形で生前に合意をとっておいた方がいいでしょう。
・ふつうの人こそ遺言書を
遺言というと、つい高齢の資産家だけのものと思われがちですが、不慮の事態が発生するのは高齢者に限ったことではありません。もし突然亡くなったりすると、遺族は大きな混乱に突き落とされます。例えば、銀行口座。死亡によって凍結されるのが原則ですが、現代人はあまり現金を持っていず、一方で病院への支払いや葬儀など、支出は矢継ぎ早にやってくるため、残された家族は相続の手続が終わるまで、金策に奔走するはめになってしまいます。
ところが、遺言を書き残している人は、実際にはとても少ないのです。法務省の調査によると、遺言書を書いたことのある人は全体の7%未満。年代が上がれば比率も高まるのですが、それでも10%に届くのは、75歳以上の区分だけです。逆に言えば、9割近くの高齢者が、遺言を作成していないというのが現実です。
日本人の生命保険の加入率は85%(30~60代平均)、つまり圧倒的多数の人が「自分が死んだ後」を考えていることになります。遺言についてもタブー視するのではなく、常日頃から話題に載せ、きちんと作っておくべきでしょう。
・当事務所ができること
自筆証書遺言の場合、その文案の作成をお手伝いします。単に書き方をアドバイスするだけでなく、遺産の制度についてのご質問にも、ていねいにお答えします。また、入念なヒアリングに基づいて文案を作るなど、文面についても手厚くフォローしていきます。
公正証書遺言の場合も、実際には原案を作って持ち込む必要があるため、文案作成の対象になります。またご希望により、公証役場への送迎も行います(公証人に来てもらうと、旅費・日当がかなりかかるのです)。保管制度を利用される場合は、ご本人が法務局の窓口に赴く必要があるのですが、この場合も、ご希望により送迎することが可能です。
遺贈寄付をご検討の場合も、ご相談に応じます。実現は遺言を通じて行う必要がありますが、それ以前に必要になる、受け入れ団体の調査や交渉など、総合的に支援いたします。
○相続
法律上、亡くなった人は財産を持つことができません。そのため、その財産は生きている人に引き継がれることになります。これが相続で、受け取る側の人を相続人、渡す側の故人を被相続人と呼びます。また、単に相続人と言うと実際に相続した人だけを指すことになるため、誰が相続するのか確定するまでの間は「推定相続人」あるいは「法定相続人」という呼び方をします。
相続で最も優先されるのは遺言ですが、書いていない人が多く、現実にはそれがない状態で相続に臨まなければならない可能性が高いでしょう。ここでまず行われるのが推定相続人の間の話し合いで、全員の合意があれば、具体的な分割を決めることができます。一方、法律は、合意ができなかった場合やそもそも話し合い自体をしなかった場合の分割方法を定めています。これを法定相続といいます。
合意した結果は、遺産分割協議書という文書にまとめます。また、法定相続人全員の合意であることを示すため、相続情報一覧図という家系図的なものを作り法務局の証明を受けることができます。相続情報一覧図は必須ではありませんが、これがあると、諸機関への届出が夢のように楽になります。
一方で、相続財産の確定も必要です。相続されるものは、プラスの財産だけではありません。負債や契約上の地位といった、被相続人が生前持っていた法的立場は、特に一身専属とされているものを除き、全てが相続対象なのです。「遺産が入ってラッキー!」なんて思ってたら実際には債務の方が多くて多額の借金を相続してしまったとか、知らない人の借金の連帯保証人になってしまったなんていうこともあり得ます。
相続に関する多くの手続には、期限が決まっています。身内の死去は悲しい出来事ですが、悲しみに暮れていても手続は進みません。粛々と進めていく必要があります。
・法定相続のしくみ
遺言がなく、推定相続人間の合意もとれなかった場合に使われる分割基準が、法定相続です。とはいえ、実際には最初の話し合いの基準になることも多いでしょう。また、負債は法定相続の率で相続されますし、相続税の計算でもこの前提でトータルの納税額が計算されますから、遺産分割協議が可能な場合でも意識しておく必要があります。
法定相続は、実は竹を割ったような単純なルールになっています。
1. 配偶者は常に相続人。配偶者以外は先順位者のみ。
1位:子 2位:親 3位:兄弟姉妹
同順位者が複数いる場合は、原則頭割り。
2. 配偶者の取り分は、他にどの順位の相続人がいるかで変わる。
子が相続人になる場合:1/2
親が相続人になる場合:2/3
兄弟姉妹が相続人になる場合:3/4
3. 子や兄弟が既に亡くなっていたら、その子が代わって相続する。
その子も亡くなっていたら、さらにその子が相続する(=代襲相続)。
直系の場合、再代襲(=代襲相続をさらに代襲)もある。
最も多い「お父さんが亡くなり、妻&子供2人が相続」という場合、妻が半分、子どもたちがさらにその半分ずつとなります。また、子どものうちの一人が既に亡くなっていた場合、その人に子(お父さんからみた孫)がいれば、代わって相続人になります。これらの場合、親なり兄弟なりの出番はありません。一方、この夫婦に子供や孫がいない場合、親がいれば親が、親もいなければ兄弟が相続人となります。そして、兄弟が子供を残して亡くなっていた場合、その子(故人からみた甥姪)が相続することになります。
・法定分割の修正/寄与分と特別受益
法定の分割比率が単純なのは、公平性をもたらすためです。とはいえ、そのままだと逆に不公平になってしまう場合もあります。例えば休日に父の仕事を手伝っていた人。相続財産の中には自分の貢献分も含まれているということで、他の兄弟が同額では不公平感を持つでしょう。また、生前に贈与や資金援助を受けていた兄弟がいる場合なども、他の兄弟からすると「ずるい!」となりそうです。
前者のような場合のために、寄与分という制度があります。相続人の一人が、被相続人の財産の維持・拡大に寄与していた場合、その分を分割額に上乗せするというものです。例えば、妻&子2人が5000万円の相続財産を分ける場合、このうち1000万円が長子の寄与分になるのなら、その分配額を、妻2000万・長子2,000万・次子1,000万とするのです。
後者の場合には、「特別受益の持ち戻し」があります。特定の相続人が、生前の被相続人から特別の利益を受けていた場合に、その受益額をいわば相続の前渡しを受けていたものとして扱い、その額を相続財産全体に組み込んだ(=持ち戻した)上で、分割割り当てから差し引くというものです。例えば妻&子2人で財産4,000万円という状況で、次子のみ住宅資金として1,000万円を生前に貰っていたら、その1,000万円を持ち戻し、みなし相続財産額は5,000万となります。法定分割では、妻2500万・長子・次子各1,250万ですが、次子は既に1,000万円を受け取っていることになるため、実際に分配されるのは差額の250万円となります。持ち戻しは、贈った側の意思で免除することができます。通常は遺言に書かれますが、口頭でも、また黙示の意思表示でもいいとされているため、それがあったのかなかったのかで大いに揉める場合もあります。
なお、相続人でない親族が相続財産に貢献していた場合、その人は「特別寄与者」としての請求権を持ちます。例えば先ほどの寄与分の例において、1,000万円の財産に貢献したのが長子の配偶者だった場合、その人は1,000万円を相続財産の中から受け取る権利を持つということになります。
・相続財産から差し引かれる分
遺言の中で指定する贈与を遺贈といいます。また、死亡を条件に行う贈与を死因贈与といいます。遺す人の一方的意思か、受け取る人との間の生前の合意があるかという点で異なります(死因贈与は、法的には契約の一種です)。
分割の前提になるのは相続財産ですが、遺贈や死因贈与の分は、さきだって取り分けられることに注意が必要です。遺産分割の対象になるのは、残った分なのです。遺贈は逝去以前に示された故人の意思なので、“亡くなった後の財産を分ける”遺産分割よりも前に実行されるわけですね。死因贈与は、受贈者との間の契約ですから、相続人よりも優先されるのは当然と言えるでしょう。
なお、法定相続人の一人が遺贈を受けた場合、その分が特別受益として扱われることが原則です。ただ、(黙示での)持ち戻し免除が認められるような理由があればその限りではなく、そもそもわざわざ財産を指定して「遺贈する」と言っている以上、それが想定される可能性は高いため、具体的なケースごとに扱いが異なることになります。なお、遺贈された財産の価額が法定相続分より高くても、追加で支払う必要はありません。
・特定の人を相続から排除するために
本人の意思として、推定相続人の中の特定の誰かに財産を渡したくないとこともあるでしょう。たとえ遺言で分割をゼロとしていても、それが第二位までの法定相続人なら遺留分が発生してしまいますから、ゼロにはできません。そこで民法は相続廃除という制度を定めています。
廃除は、家庭裁判所の審判を経て行われます。虐待・重大な侮辱・著しい非行などの理由が必要で、審判で認められれば、該当者は相続から取り除かれます。なお、この申し立ては遺言ですることもできます。本に書かれている例のほとんどは、年老いた親が極道息子等を廃除するケースですが、例えばDV被害などにあっていた子が親を廃除するということも起こりうるでしょう。
また、相続欠格という、法的に最初から相続人の資格が失われる場合もあります。例えば、被相続人や先順位の相続人を殺害した場合などサスペンス劇場さながらの場合が該当しますが、他にも、遺言作成の妨害をしたり、隠したり書き換えたりといった、ついおこってしまいそうな場合も対象です。廃除と異なり、被相続人の主張の有無にかかわらず、該当する事実があれば適用されます。
なお、廃除や相続欠格の効果は当人限りで、その子には及びません。子を廃除した場合でも、相続人としての地位は孫に代襲相続されることになります。
・債務の相続
相続されるものは、財産だけではありません。負債や契約上の地位といった、被相続人が生前持っていた法的立場は、特に一身専属とされているものを除き、全てが相続対象なのです。
相続では、遺言に基づく分割や推定相続人の合意が、法定相続よりも優先されます。しかしこと債務に関しては、そうではありません。相続人は、法定分割の比率に基づいて、債務を引き継ぐことになります。
これは、債権者の立場から考えるとわかりやすいでしょう。債権者にとって、その債権を請求できる相手は、債務者の地位を引き継いだ人=相続人全体です。そして、合意分割がどう行われたのかは、債権者には関係ありません。その結果、個々の相続人に対しては、分割額の多寡にかかわらず、法定相続分の請求ができることになるのです。
例えば妻&子2人が相続人となった場合だと、1,000万円の債権を持つ債権者は、妻に500万円、子のそれぞれに250万円を請求できることになるのです。ここで相続放棄をしていた推定相続人がいた場合、その人は除外されます。例えば子のうち次男が単独で相続放棄をしていたら、妻500万・長男500万となります。
・遺留分
自分の財産をどう処分するのかは、本人の自由です。それが生涯最後に発揮されるのが遺言なのですが、例えばお父さんが「全財産を日本赤十字社に寄付する」なんて書いていたら、残された家族は明日食べるものにも困ってしまうことになります。そこで、近しい親族について「最低保証分」が決められています。これが遺留分です。
遺留分は、多くの場合、相続財産総額の1/2。これを、第二位の相続人までが法定分割に応じた分について権利を持つというしくみです。例えば妻&子2人に6,000万円の相続財産を残したお父さんが上記のような遺言を残していたら、妻は1,500万を、子供はそれぞれ750万を、日本赤十字社に請求することができるのです。なお、「多くの」以外は、直系尊属だけが相続人になる場合で、こちらは相続財産総額の1/3が遺留分となります。例えば、若い独身者が、唯一の財産である時価300万円の自動車を「友人のA君に遺贈する」と遺言して亡くなったら、父母のそれぞれは50万円ずつをA君に請求できるということになります。
遺留分の主張は、実際には特定の相続人だけが優遇された場合に使われることが多いでしょう。例えば相続財産4,000万円のうち、不動産評価額が3,000万なんてことも多いのですが、このときの遺言の内容が「家屋敷を長子だけに相続させる」となっていたら、残った財産では、妻と次子は遺留分(1,000万/500万)を満たせません。そこで、足りていない分のお金を長子に出させることができるのです。この権利を「遺留分侵害額請求権」といい、金銭債権以外のものでも金銭として請求することになります。「家の所有権の一部をよこせ」という要求はできません。
遺留分があるのは第二位までなので、子と親で終わりです。兄弟姉妹にはありません。また、子が既に亡くなっていた場合は、いればその子に引き継がれます。
なお、相続人の中に相続放棄をした人がいても、他の人の取り分は変化しません。
・承認と放棄
相続は故人の法的立場をそっくり承継するものなので、例えば財産より負債の方が多い場合など、できれば辞退したい場合もあります。また、黒字なのか赤字なのかはっきりしていなくて困る場合もあるでしょう。相続人としてはじっくり考えたいところですが、債権者としては請求先を確定させてほしいわけで、いつまでも放置されていたのでは困ってしまいます。そこで、3ヶ月という期間(熟慮期間といいます)が定められています。単純承認(いっさいがっさいを相続すること)をしない場合には、この期間内に家庭裁判所に申述する必要があるのです。
単純承認以外の承認には、限定承認と相続放棄の2通りがあります。
限定承認は、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐというものです。便利そうに見えますが、実際にはとても使いづらい制度で、選ばれることも多くありません。
相続放棄は、自分を相続財産から切り離す宣言です。対象になるのは自分だけでなく、自分の子も含まれます。故人の残した負債から自分&子供たちを守るために行われるものですが、実際には相続財産を特定の相続人に集める(例えば、先祖代々の財産を長男に継承させる)ために行われるという面もあります。家庭裁判所に申述することが必要で、例えば親戚一同が会した場で「俺、いらないから!」と宣言しても、法的に有効な相続放棄にはなりません。なお、家庭裁判所への申述というと大がかりなものに思えますが、実際には書類一枚出すだけです。
相続人一同が揃って相続放棄をした場合、相続は次順位の法定相続人に行きます。例えば、夫が多額の借金を遺して亡くなったため、妻子一同で相続放棄をすると、その債務は次順位の相続人である両親に、両親が既に亡くなっている場合は兄弟に行くことになるのです。そのため、ほとんど会ったこともない伯父さんの債権者がいきなり自分の元に現れる……などという、悪夢のような事態もあり得ます。
・当事務所ができること
近親者の逝去は、遺された人にとって大きな負担になります。葬儀や親類縁者への連絡など、肉親でなければ進められないことも多くある中、行政書士にできることとして、関係機関への通知・届出などを代行します。
法律業務としては、相続情報一覧図、財産目録、遺産分割協議書などの作成を行います。これらの文書は調査を必要とする場合が多く、実際の受任は文書作成と調査をあわせた形になる場合が多いでしょう。調査も、受任業務の対象です。
相続の話題について、「自分は富裕層ではないから」と、無関心になってしまう人が少なくありません。しかし、相続を巡る争い《争族》は、実際には富裕層のものではありません。司法統計によると、遺産の分割について遺族間での話し合いがつかず家庭裁判所に持ち込まれる案件のうち、実に4分の3が資産5千万円以下で、さらにその半数近くは1千万に満たないのです。逆に、資産5億以上の富裕層が占める割合は、1%未満。残念なことに、非富裕層にとってこそ、争続はとても身近な問題であるということが言えます。
このようになってしまう原因は、士業の働きかけの偏りにあるのではないかと思います。元々富裕層の場合、弁護士や税理士との関わりが深く、相続についても十分な対策がとられていることが多いのです。また、非富裕層が支払える報酬額では彼らのビジネスの対象にならないという、シビアな現実もあるでしょう。
当事務所はここに問題意識を感じています。そして、富裕層以外にとっても利用できるようなリーズナブルな法務サービスを提供していきたいと思っています。
なお、遺産分割協議書の案件を受任した場合、代金と期日でかなりの幅が出ることをご理解ください。代金は、作成方法によって異なります。遺族代表者の方お一人とのやりとりで作成できるのか、それとも各相続人のもとを個別に回らなければならないのか、またあらかじめ合意はとれているのかなど、様々な要因によって変わってきます。また期間についてですが、行政書士は、代理人として交渉することは許されていないため、複数の相続人間を回りながら合意をとっていくような場合ですと、一方のご希望を他方にお伝えするといったメッセンジャー的な役割しか担えず、たいへん時間がかかってしまいます。また、全員の合意をとることができなかった場合、「争訟性がある」案件に該当するため、受任自体ができません。
お話を聞いた上で、想定される費用と期間を見積もらせていただき、受任の可否について話し合っていきたいと思います。
○家族信託
信託は、財産を人に預けて運用してもらう制度です。預ける人を委託者、預けられて管理運用する人を受託者、そして運用した利益を得る人を受益者といいます(ただし多くの信託では、委託者=受益者です)。委託者と受託者の間の契約で組成されるもので、信託法によって規定されています。
市中には“信託銀行”も多数あり、また投資信託などもよく話題になるため、この言葉自体はなじみのあるものでしょう。それら、会社がビジネスとして運営している信託を「商事信託」といい、信託業法によって規制されています。一方、非営利で行われる「民事信託」というものもあります。通常、家族が受託者になることから、「家族信託」という名前が使われています。
家族信託は、とても優秀な制度です。相続はもちろん、認知症対策や事業承継までカバーできるのです。さらにはお一人様や非婚カップル、また自分の死後取り残されるペットのことが気がかりな人まで、幅広く対応することができます。
・認知症対策としての信託
認知症と判断されると、銀行は口座を凍結する場合があります。こうなるとお金の出し入れができず、日常生活にたちまち困ることになります。また、契約が後から無効にされてしまうリスクを嫌い、通常の業者は新規の契約を敬遠します。そのため、建物の大改修を行ったり、また売却したりといったことができません。アパート経営をしている人なら、新たな入居者の受け入れもできなくなります。
こういったリスクは、単純な家族信託で回避することができます。「ご本人が委託者兼受益者、息子さんが受託者」という形で信託を組成するのです。信託契約によって、対象財産の所有権は受託者に移り、受託者にはその財産を管理する義務を負いますが、そこは家族なので、お金の引き出しでも柔軟な対応が期待できます。そして、不動産売買などの契約は、受託者である息子さんを主体に進めることができますし、悪徳な業者も息子さんのところでシャットアウトできます。
詳しくは、認知症対策の項目で説明します。
・後継ぎ遺贈型受益者連続信託
遺言には、代をまたいだ指定ができないという限界があります。
例えば、自宅以外に宅地を持っている人が、「宅地の方を次男に渡し、自宅の方はいったん妻に相続させてからその後は長男に…」と考えることは、ごく自然でしょう。ところがこのような指定は、遺言ではできません。付言としてその要望を書くことはできるのですが、これには法的効果はありません。実際に奥さんについて相続が発生した時点では、長男も次男も相続人としては対等な立場となるのです。
このような場合、信託を使うことで、望むような結果を出すことができます。
自宅を信託財産にし、長男を委託者、ご本人を第一受益者、奥さんを第二受益者、そして終了時の帰属権利者も長男という形で設定します。ご本人が亡くなると、自宅の権利は、第二受益者である奥さんに移ります。そして、奥さんの死亡で信託は終了、自宅は帰属権利者である長男のものになります。契約は、通常当事者の死亡によって終了となりますが、信託を使うことで、いわば死後も有効な契約を結ぶことができるのです。
なお、この受益者の承継は無限に続けることはできません。受け継ぐ受益者は設定できても、信託法の規定上、組成から30年を経過した時点で「あと1回」となり、その人が亡くなった時点で終了となります。それでも、“最初の1回だけ”である相続よりは、断然射程が長いと言えるでしょう。
・事業承継型信託
個人事業主であれ、会社のオーナー社長であれ、事業を次代に継承することは頭の痛い問題でしょう。例えば個人事業主の場合、店や倉庫などもっぱら事業のために使っている資産でも、相続発生時点では分割されるべき財産となってしまいます。たとえ遺言で全額を指定していても、他の子は遺留分を主張できるため、実際に引き継ぐ後継者にとって大きな負担となってしまいます。
会社のオーナー社長の場合、株式という形でオーナーシップを持っている場合が多いと思いますが、これを子どもたちに分割相続させてしまうと経営権の分散につながり、例えば会社経営を引き継いだ長子をよそに、弟妹たちが自分の持分を誰かに譲ってしまって、経営権がそれを集めた第三者に持って行かれてしまう…などということもあり得ます。これを防ぐためには一人に集中させることですが、こうなると相続税評価額が偏ることになり、他の相続人の遺留分という問題が出てきます。
ここでも、信託が活用できます。まず後継ぎ遺贈型受益者連続信託と同じような方法。個人事業主であれば事業用資産を、オーナー社長であれば会社の株式を、丸ごと信託対象にするのです。受益者は委託者であるご本人。そして後継者は、受託者であるのと同時に、終了時の帰属権利者に設定します。これによって事業/会社のオーナーシップは相続財産から切り離され、無事後継者に渡すことができます。また、信託の開始にあたって例えば認知症発症時というような条件を付けておくことで、「しっかりしているうちは、私自身が経営する」も、実現できることになります。
また、段階的な事業承継…例えば「社長の座を長男に譲るが、同時に自分も会長として経営の決定権を持った上で長男に帝王学を学ばせ、十分な経験を積ませてから完全に移譲する」というようなご意思も、一般社団法人を作って受任者とし、自分と後継者がその理事になる(議決権は自分の側を大きくしておく)ことで実現できます。
亡くならないことには始まらない遺言では、このようなご希望はどうにもなりません。
・商事信託と家族信託の違い
ビジネスとして行われる信託を、商事信託と言います。信託業法に基づく専業の信託会社の他、多くの銀行――名前に「信託銀行」が入るところ以外にも、メガバンクや地方銀行など多数――が信託業務を兼営しています。これらは総理大臣の認可を受けて営業しています。信託組成の時点で初期費用を、契約後は月単位で管理費用や運用報酬を受け取っています。
家族信託は、正しくは民事信託といい、商事信託の特徴を裏返しにしたものが特徴となります。受託者に特に資格はなく、また事業として報酬をうけとることができません。なお禁止されているのは「事業として」なので、合意の上である程度の額を決めておくことが一般的です。実際、担当する人にはかなりの事務的負担がかかるため、全くの無報酬だと、逆に不公平感を持ってしまうでしょう。
このように、基本的な仕組み自体は共通なので、上にあげた家族信託の類型は、信託業者の商品の中にも同じように存在しています。管理費用や運用報酬は、信託財産額に対するパーセンテージで設定されることが多いので、財産が多ければ多いほど高額になってしまいますが、プロによる確実性の恩恵が大きいのもまた財産額に比例するところがあるので、どちらを選ぶのか悩ましいところでしょう。
・相続税対策には役立たない
世間で「相続対策」として語られているノウハウは、その大半が「相続税対策」です。相続で動く金額は、日常使っているお金に比べると格段に大きいため、納税額も息を呑むような金額になってしまう場合があります。関心事が高いのも当然でしょう。
ただ残念なことに、家族信託は、節税目的ではあまり役に立ちません。
まず、委託者と受益者が異なっていた場合、贈与税の対象になります。そして委託者の死亡で受益者が交代した場合、信託財産が相続されたものとみなされ、新たな受益者に相続税がかかります。受益者から次の受益者に交代ときも同様です。そして信託契約の終了時点では、その権利を引き継ぐ人が相続税を払います。
また、一般社団法人を介した場合も、相続税から逃れることは困難です。というのも、かつて節税目的で一般社団法人を設立するスキームが横行したことから、「同族理事の比率が半数に及ぶ場合、個人とみなして相続税を課す」ルールが定められているのです。
なお、相続税とは直接関係ないのですが、信託を利用する場合、遺留分の問題にも配慮する必要があります。裁判所に、信託組成自体が遺留分逃れを目的にしていると判断されると、「公序に反する」として契約が無効にされてしまう可能性があるからです。事業承継目的で組成するにしても、対象外の推定相続人に対して金銭補償ができるよう配慮しておく必要があるでしょう。
・当事務所ができること
家族信託は、契約で組成します。契約書の作成は行政書士の法定業務なので、ここでお手伝いできると言うことになります。ただ、当然ながら、本来中心にあるのは委託者様が実現したいことであって、契約書はそのための手段に過ぎません。そのため、委託者様の意向についてじゅうぶんなヒアリングをした上で、そのご希望を実現できる内容にしていく必要があります。また、信託口口座の開設や名義の変更など、前後して発生する手続きも多数に及びます。このような意味から、単に契約書を作成するということではなく、ご相談から始まる包括的な業務としてお受けすることを基本にしています。
財産規模が極めて大きい場合や、複雑な法的関係を含んでいたり、紛争が確実に予想されるなどの場合で、当事務所では能力的に受任が困難であっても、信頼できる専門の法人を紹介することもできますので、まずはご相談ください。
なお、料金は個別に設定させていただくことになりますが、「必要十分な法務サービスをリーズナブルに」という当事務所の基本コンセプトを維持していく所存です。
○認知症対策
少し前から、「2025年問題」という言葉が注目されています。戦後の復興期に生まれ高度成長を支えたいわゆる団塊の世代が、この年までに全員75歳以上の後期高齢者となります。予想される高齢者人口は、実に2,200万人。減少しつつある日本の人口の中で、圧倒的にスケールの違う超高齢者社会の到来によって懸念される諸問題を、この言葉で表しているのです。
その中で想定されている認知症患者は、なんと320万人。一般的な県の人口をも易々と超える規模の人数です。「介護人材をどう確保するか」などが議論されていますが、法律の視点では、個人の財産をどう守るのかという問題が、とても大きなものになります。
本来、自分の財産をどのように使うのかは、その人の自由です。しかし、認知症で判断能力が衰えた人というのは、悪意ある業者にとって格好の獲物です。このような現実の危機がある以上、保護も考えないといけません。そのために用意されたのが成年後見制度ですが、あれこれと問題があり、期待したようには機能していないのが実情です。
既定の仕組みがあてにならない以上、自分自身で対策を組み立てていく必要があるでしょう。
・具体的な問題点
民法は、私的自治を原則にしています。簡単に言えば「約束は守る」ということ。当事者同士が合意したのなら、それは守られなければいけません。そして当事者が何をどう合意するのかも個人の自由です。これを「契約自由の原則」といいます。これらの前提になるのが、自由意志です。「自分のことは自分で決める」ということで、それを実現する判断力があることもまた前提視されているのです。
とはいえ、例えば酔っ払いをイメージしてもらえばわかるように、現実に“いつでも誰でも”でそんな力を持っているわけではありません。そこで民法は「事理弁識能力(自分の行為の意味を理解できる能力)のない人が行った法律行為は無効」と定めました。酔っ払いは一時的にそうなっているだけですが、継続的に該当する人にも適用されます。認知症が進行してこれに該当する場合、契約などの法律行為は無効になるのです。
ただ、これでもまだ懸念があります。認知症という病気はゆっくりと進行していくものなので、「だいぶ怪しくなっているが、事理弁識能力を欠くとまでは言えない」人だと、完全な能力者として扱われてしまうのです。その一方で、現実に振り込め詐欺などが横行していることから、銀行や証券会社には「顧客の財産を守れ!」という社会的圧力がかかっています。そのため、認知症と判断した顧客の預金口座を凍結するということを行います。こうなってしまうと、家族はもちろん、本人であっても引き出すことができません。
このように、放任と保護が両極端になってしまっているのです。
・成年後見制度
当事者に事理弁識能力がない場合、契約等は無効にできるため、財産は保護されることになります。ただ、その判定を契約ごとに個別に判定しなければならないとすれば、その都度訴訟を起こす必要があり、現実的ではありません。
そこで、精神上の障害で事理弁識能力が損なわれている人について、一定の条件で「保護される人」と認め、法的能力について一律に取り扱って保護するという仕組みが、2000年に導入されました。対象になる人に個別に“保護する人”を付け、契約などの法律行為について、代理・同意・取消・追認などの権限を保護者に与えることで、対象者の財産を保護するわけです。保護の内容は、認知症の進行度によって三段階があり、重い方から成年後見/保佐/補助となります。事理弁識能力を常に欠く場合が成年被後見人、著しく不十分な場合が被保佐人、不十分な場合が被補助人です。そして制度の全体を「成年後見制度」と呼びます。
成年後見制度での保護は、家庭裁判所の審判によって開始されます。審判は、本人や親族等が家庭裁判所に申立を行うことで始まるもので、裁判所は、必要に応じて医師の鑑定もとりながら審査を進めて可否を判断、2・3ヶ月程度で成年後見人などを指名、成年後見等が始まることになります。なお、申立書には「この人にしたい」という候補者(家族など)を記載することができるのですが、裁判所はそれに拘束されず、必要だと判断した場合に、独自に弁護士などのプロ後見人を任命します。
・成年後見の問題点
鳴り物入りで始まった成年後見ですが、期待通りというわけには行きませんでした。当初は主に親族が後見人になっていたのですが、横領事案の続出が問題視され、プロ後見人中心に変わりました。その結果、新たな問題が発生したのです。
まず、費用。選任された後見人には被後見人の財産から報酬が支払われますが、この額は審査の中で決められ、月2~6万円になります。また、申立て時にも、医師の鑑定が必要とされた場合、別途10万円の鑑定費用が発生します。
次に、実際の仕事。選任された後見人は、一般人の期待をはるかに下回る業務しかしません。基本的に口座の管理だけなのです。家族からの「本人のためにお金を使ったので出してほしい」という請求に対し、内容および領収書のチェックを行い、認めた場合に本人口座から出金する、そういう仕事です。施設への訪問や介護状況の確認などはいっさい行いません。また、財産管理においてはひたすら「守る」だけで、融通が利きません。家族側が必要だと思った数万円程度の出費でも、「財産を損ねるから」という理由で拒絶されることがあります。
そして、解任できないということ。どのような酷い仕事っぷりを示したとしても、解任権を持つのは裁判所だけで、家族からはやめさせることができません。申立をすることはできますが、どれだけ横柄な態度を取ろうが、あるいは侮辱しようが、違法といえるレベルの任務懈怠がない限り解任されることはないのです。この問題は、メディアでもたびたび報じられています。例えば『東洋経済オンライン』のこの記事が参考になるでしょう。 https://toyokeizai.net/articles/-/319164
破綻している…とまでは言えないものの、いい状態とは言えないでしょう。少なくとも、積極的に利用したいような制度ではありません。
・任意後見人という選択肢
成年後見は非常に強力な制度ですが、それゆえに融通のきかなさもあります。例えば「今はまだだいじょうぶだが、将来に不安がある」という人の選択肢にはなれません。被後見人への道は事実上の片道切符で、一度なってしまうともう元には戻れません。また、多くの場合、自分以外の人の審判申立で始まりますから、「自分の財産の使い道は自分で決められる」という民法の大原則から外れています。
そこで、成年後見とあわせて導入されたのが、任意後見という制度です。本人が、まだ頭がしっかりしているうちに、任意後見人になってくれる人(=任意後見受任者)と契約を結びます。そしてこの契約で定めた条件(例えば認知症発症など)を満たした場合、任意後見受任者は任意後見人となり、後見業務を行うというものです。なお、受任にあたっては、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てます。これは、任意後見人が横領などの不正をしていないか監視する人で、裁判所によって弁護士や司法書士の中から選任されます(報酬は成年後見人同様、裁判所が決めた額が被後見人の財産から支払われます)。
契約内容として決める任意後見人の仕事は、大別すると、財産管理と身上保護の二種類です。なお、代理権については、契約内容に盛り込んでおくことで付与することができます。ただ、成年後見人と異なり、取消権はありません。なので、悪徳業者対策という点では決め手を欠いた制度とも言えます。一方で、契約で組成するため、きめ細やかな内容設定が可能です。例えば、終末期医療に関する希望などを盛り込んでおくこともできます。
任意後見は、士業に限らずさまざまな事業者が提供しています。また、任意後見は裁判所の監督人選任によって始まるものですが、それ以前から法律外のサービスを提供する、いわゆる「見守り支援」を組み合わせている場合もあります。
・家族信託という答え
先に挙げた家族信託は、実は認知症対策としても有効です。高齢になり、認知能力への不安が出てきた段階で、例えば息子さんを受託者とする形で家族信託を組成するのです。
信託によって、財産の形式的な所有者は受託者に移ります。委託者自身が所有者ではないため、各種業者のしつこい勧誘も回避することができます。また、株や不動産の売却など、成年後見人ではできない財産の処分も、受託者であれば行うことができますし、建物の大規模修繕などもOKです。そして、成年後見の現実の大きな問題である「融通が利かない」点も、身近な人が財産を管理しているため、柔軟に対応することができます。生活費が必要になれば息子さんを通じて引き出すことができるのです。
何より信託の強みは「オール・オア・ナッシング」ではないということ。財産の全てではなく一部を信託にすることもできますし、開始時期を「医師による認知症の診断が出た時点で」とすることもできます。また途中で取りやめることも可能です。
ただ、家族信託の組成には、ご本人の意思判断能力がきちんとしていることが条件になります。「事理弁識能力がない」状態まで認知症が進んでしまうと、契約を結ぶことが困難になってしまうのです。
・当事務所ができること
いずれの業務も、依頼主様ごとに最適な選択肢を探るという前提で、個別に対応いたします。また単に「書類を作成する」ということではなく、包括的に取り組むことを前提にしています。
認知症対策には、さまざまな選択肢があります。任意後見や成年後見も、まず制度ありきというものではありません。スタート地点にいるのはご本人で、周囲の人間はご本人にとって最適な選択肢を選んでいく必要があるのです。
その人が必要とするサービスは、まさに人それぞれです。全て応じられるわけではありませんが、誠実に対応します。
なお、当事務所は名古屋にあり、日常的に直接出向ける範囲というのも、名古屋市内およびその近隣地域に限られています。認知症対策業務では、この意味で受任できない場合もあるものと思われますので、ご了承ください。
また、この分野の業務は多くが業際領域に属しており、行政書士が単独で全てをすることはできません。当事務所が法的に受任できない部分については、依頼主様ご自身でしていただくか、他の士業に依頼するということになりますので、ご理解ください。なお、当事務所の方から、協力関係にある司法書士等に依頼することもできます。