「ご職業は何ですか?」
「あ、はい。行政書士…をしております」
実際には別に言い淀んだわけでもなく、さらさらっと口から出てきたのですが、言っておいて自分で戸惑いを感じてしまったのです。“第二の開業”から半年。「副業として行政書士事務所を開いている専門学校教員」から、「専門学校の講師もしている、行政書士」に変わったのですが、この“服”の重さをふだんは意識できていなくて、それが交番で名乗った瞬間にずしっと感じられた、そんなところでしょうか。
行政書士という肩書は、受験を始めたときの自分にとっては、正直なところただの“トロフィー”でした。学部卒業後、法律との関係が希薄な仕事を続けてきたのですが、40代も半ばを過ぎた頃、やはり自分のバックボーンは法律学だと気づき、いわば“けじめ”として、資格取得を考えるようになったのです。数ある資格の中から行政書士試験を選んだのも「手が届くところにある中ではハイレベルだから」以上のものではありませんでした。
その後、受験を続けていく過程で業務への積極的な思いも出てきましたし、合格後は実際に士業登録もして、その過程で真剣になっていたつもりでいました。ところが、本業化してみると、やはり違っていたのです。
漫画「ブラックジャックによろしく」の最初の方のエピソードで、主人公の斎藤医師がアルバイト先の院長からいわれる、こんなセリフがあります。
「医師免許を手にした時から、おまえはふつうの人間じゃない。
医者だ。医者なら、やれることをやれ!」
基本的にはこれと同じなのですね。医師というのは、人の生物学的側面に生じた問題を対処し、また問題発生自体を未然に防ぐ、そういう職業です。そして、人が生きていくということは、単に生物としての生存だけで構成されているわけではありません。社会的側面というのもあり、ここが破綻してしまうと、やはり生きていくことはできないのです。法律家というのは、ここで生じた(&生じるおそれのある)問題を相手にする仕事です。切れば血が流れる生身を相手にしているということです。
この文章を書いているのは、ちょうど2022年度の行政書士試験が終わった直後。また新たにこの道に進んでくる人が追加される、そんな日です。愛知県だけで3,500人も受験したとのことで、順当に行けば400人近くの合格者が出るということになります。中には「ブラックジャックによろしく」の斎藤君のように、開業と同時に厳しい洗礼を受ける人もいるかもしれませんが、そうでないにしても、階段を登っていけば、いつかは気づく日の来る事実なのです。
……なんて書くと、まるで後進への説教のようになってしまうのですが、そうではなく、自分自身への戒めです(ぼく自身、第二の開業を起点にすれば、まだ一年坊主ですからね!)。この場合、世間で言われるのと逆で、初心に帰っては駄目なんですが、まあそんなこと思っていた過去の自分を思い出すというのは、大事なことではありますね。