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渉外相続という難問(1)

 行政書士会には会報があり、毎月、全国会と県連の両方から送られてきます。ボスの挨拶とか、会や会員の動向とか、懲戒を受けた行政書士を晒したりとか、そういった記事で構成されているわけですが、勉強目的の記事も載っています。届いたばかりの日行連会報で扱われていたのが、「渉外相続」というものでした。
 法律で「渉外」といったときは、外国が関係してくる場合を意味しています。例えば国際取引がトラブルになった場合、法律家は両国の法律制度を捌いていくことになるわけですが、こういう領域で仕事をする弁護士が渉外弁護士です。直接の根拠法は「法の適用に関する通則法」という法律で、ここでの規定に従って、どういう場合にどちらの国の法律に準拠するのかを決めていくことになります。当然ながら、両国の法律に精通していた上で、それぞれの言語でスコラ的な議論ができなければならないという、聞くからに難しそうな仕事です。

 で、渉外相続。要するに、相続が国をまたいで発生する場合です。相続人か被相続人のどちらかが外国籍であったり、また相続財産が外国にあったりといった事例ですね。多文化化が進む現代日本では、日常的に起こる事態と言えるでしょう。
 にもかかわらず、このタイトルを見たとき、びっくりしてしまったのです。

「なんてことだ、それがあったんだぁぁぁッ!」

 その可能性に、全然気づいてなかったんですね。
 かつての日本では、「ニッポンは単一民族国家ァァァッ!」なんてプロパガンダがまかり通っていました。首相が国会答弁でどうどうとそういう事をいい、野党も特にツッコミ入れなかったものです。そういう時代に少年時代を過ごし、高校の政治経済では「単一民族国家には、日本以外にどんな国があるか」なんて設問を投げかけられた私にとって、「渉外なんて例外」という思い込みは、ミドルネームを持つ学生たちと日常的に接していても問題の存在すら気づかないほどに、強固なものだったのです。(続く)

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