記事

キャンパスの勧誘/今・昔

 専業化という形で始まった“第二の開業”も、早くも2年目になりました。とはいえ、長年続けた学校の仕事も、講師という形で今も続けています。最初の頃に教えていた学生はとっくに不惑の歳になり、当然こっちもその分老けているんですが、新入生は毎年やってくるので、気持ちは若いままです。これは教員稼業の、主観的ないい点なのですが、客観的にはむしろ困った点ですね。
 さて、今のぼくは、その教員業と並んで法律屋でもあるわけですが、両モードが重なる部分において注意しなければならない状況が発生しています。学生層を狙った詐欺的な勧誘が横行しているのです。幸いにして、自分の見ている学生には被害者がいないんですが、例えば投資案件であったり、マルチ商法であったり。世の中に存在する「投資やんなきゃ!」「副業しなきゃ!」という“風”を前に、特に「意識は高いけど知識が追いつかない」レベルのバンドワゴンな学生を狙っているのですね。
 自分が学生だった昭和の時代には、そんなものはありませんでした。世知辛い時代になったものだ…なんて思ったのですが、ふと気づきました。ぼくらの時代にも、中身は違うけどあったよね、ということです。


 あの頃、新入生に狙いを定めるたちの悪い勧誘が、キャンパスには3通りありました。宗教、左翼、体育会です。
 宗教とくれば、当時猛威を振るっていたのは原理研究会=統一教会そしてオウム真理教でした。また左翼の場合、はっきりセクト名を名乗っていたのでは誰も入らないので、ふつうのサークルのふりをして勧誘してくるのが手口でした。歴史のサークルと信じて入会したところ、先輩たちが開いた最初のゼミが「共産党の歴史」と称して左翼セクト各派の特徴をみっちり説くという内容で、あわてて逃げ出した…なんて人が友人にいます(後に、そのサークルはうちの大学における革マル派の拠点だったことが判明しました)。
 3番めのは、今の学生だと意味がわからないと思います。体育会といっても、もちろん野球部なりサッカー部なりがそんなことするはずもなくて、ずばり言ってしまうと、応援団と空手部です。内側に竜虎のたぐいの刺繍が入ったガラの悪い長ランをまとい、手当たり次第に声をかけていたのです。その態度はせいいっぱいよく言っても「威圧的」で、もっと言葉を飾らずに言えば「やくざ」です。
 あの時代は、おおらかだったとも言えますし、諦観に満ちていたとも言えます。当時の社会では、暴力団が幅を利かせていましたし、社会の支配的な層はそれを利用していました(例えば大手新聞の勧誘など)。恐怖感を売り物にする応援団の存在も、大学当局にとっては同じようなものだったのでしょうね。


 この40年近くの間、投資のためのテクノロジーは別格の進化を遂げたように思えます。もちろん投資情報が簡単に手に入ったり、オンラインで購入できたりということですが、それにしたってお金がなければどうにもなりません。いまや、お金を調達する方法も格段に進歩しているのです。その結果、手持ち資金ゼロなんて人間でも、不動産投資を―しかし脱法的に―始められてしまうようになっています。結局、貧乏人からも投資と称して金をだまし取れる環境が整ってしまったとも言えてしまいます。
 もう一つ言えるのは、現代人は勧誘されることに慣れすぎているのかも、ということ。そもそも、投資というのは、勧誘してきている時点でほぼ確実に騙しです。楽天証券に口座作って始めればほとんどかからない手数料を、担当者の生活費を賄えるほどに余計に払わなければならないのが、売り込んでくる投資です。それを疑問に思わないのは、ふだんから勧誘ばかりされてきているからですね。
 投資も副業も、実際に前提となるのは「自分の判断で動ける」ということ。講師としてファイナンスの講義もする立場なので、「危ないから近づくな」ではない、生きたメッセージを伝えていきたいです。

]]>