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行政書士事務所クリエイターズ・フェロー

著作権教育の問題点

法律への戸惑い

 著作権法の内容は、実のところかなり驚きに満ちています。
 まず、権利発生範囲の、ただならぬ広さ。ただ著作をしただけで自動的に権利が発生し、しかも著者の死後70年という長期にわたって存続することから、他の知財と比べても圧倒的と言えるとてつもない広さを持っています。
 次に、あまりに簡単に侵害となってしまうこと。複製の他、上演や上映そして翻案までカバーしているため、ダンスの振付を真似したり、テレビ番組を地域の皆さんと一緒に見たり、そんなごく当たり前のことが、いちいち権利侵害となってしまいます。
 そして、不釣り合いなほどの刑罰の重さ。著作権法には詳細な罰則規定があり、全般に決して軽くありません。中心となる著作権侵害罪の法定刑は懲役10年&罰金1000万円と、まさに重大犯罪扱い(ちなみにこれは国家機密漏洩罪と同じです)。「営利目的」とか「反復継続した場合」といった限定もついていず、誰もが自宅の机の上で簡単にできてしまうことが、こんな重罪の対象になっているのです。

くり兵ェ

誰もが犯罪者になれちゃう時代

 今の著作権法の原型は、明治時代に作られています。以来長い間、基本的に「業界法」でした。出版や音楽など、限られた業界の関係者のための法律で、権利侵害規定も、海賊版業者などから守ることで業界の健全な発展を図るために設けられていました。何しろ、コピー機はおろか、テープレコーダーすらなかった時代で、それなりに大掛かりの装置を有する業者にしか、侵害行為もできなかったのです。
 ところが、やがて技術が進歩し、この前提は崩れてしまいます。創作が開かれるのと同時に、他人の創作の複製もまた誰にでもできることになったのです。にも関わらず、著作権法は、新しい権利規定や罰則ルールを追加しただけで、ほとんど変わりませんでした。その結果、誰もが当たり前に行う録音録画も、かつてのレコード盤複製装置を保有して行う場合と同じ規定の元で規制されていたのです。
 そのような消極主義は、デジタル化やネットワークの登場などを迎えても変わっていません。PCやインターネットの普及によって、誰もが“権利侵害者”になれてしまう時代を迎えているのに、業界法の枠組みのままで、業界の利権の代弁者たちの影響下で運用・改正がされています。

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未だ見えず、フェアユース

 アメリカの著作権法には「フェアユース」という除外規定があります。たとえ形式的に侵害行為に該当しても、その目的が正当化できる(=フェアな使用)ものであれば、違法にならないという考え方です。これが適用されるため、教育現場や研究開発では、複製などの著作物利用をしても権利侵害になりません。
 しかし、日本法にはこれがありません。個別の条文で「この場合は著作権が制限される」といちいち指定されていることだけが許されるという構造です。そして、新たな問題が発生するたびに条文は追加されていき、実際の法律は複雑怪奇なものになっています。「インターネットを使った遠隔授業で、生徒に見せるために画像を表示する」なんてことすら、つい最近の改正までは権利侵害とされてしまっていたのです。
 「日本にもフェアユース規定を設けるべきだ」という見解は、学界からは強く出されているのですが、産業界が強く反対しているため、依然として採用される見通しは立っていません。当分は現行のような「明文で認めた例外以外は全て禁止」状態が続くことになります。

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産業界の要請がダメな理由

 先述のように、著作権教育は、ともすれば「してはいけないこと」リストの羅列になってしまいがちです。実際、コンテンツの業界は「小学生にも著作権教育を!」などと主張しているのですが、蓋をあければ「“やっちゃだめだよ”リスト」を憶えさせろと言ってるようなものです。でもこれは子供に対して適切な対応でしょうか?
 社会の多くの場面には「過剰な法規制」が存在します。しかしそれは、市民と官権の双方によって良識的に弾力運用されるからうまく動いているのです。好例が、道路の制限速度。警察が個別に取り締まるのは目に余る場合だけで、通常のドライバーはそれを見越して「流れ」に乗せた運転をしています。もし全員が杓子定規に規制を守ったら、至る所で大渋滞が発生してしまうでしょう。そして大きな社会不経済の発生はもとより、自動車という商品はおよそ魅力的でなくなり、自動車産業も一気にしぼんでしまうことでしょう。
 しかし、これと同じようなしたたかさを子供に期待することは無理です。

「ドラえもん、むだんで描いたら、ふくせいけんの侵害なんだぞー!」
「替え歌って、ほんあんけんの侵害になるから、いほうなんだぞー!」

 そんなやりとりが行き交う教室からは、果たしてクリエイティブなものが生まれてくるのでしょうか?

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