著作権は、数多くの支分権によって構成されています。第22条から第28条までは、そうした複製権以外の支分権が書かれている、いわば「権利カタログ」とも言える部分です。
著作権の中心となる複製権は21条で規定されていますが、そこで書かれているのは、あくまでも複製の権利に留まります。「もたらす効果が同じだから」といって、明らかに複製ではない行為にまで複製権の対象を広げてしまうことは、物権法定主義の原則から許されません。そこで、数多くの支分権が別個に規定されているのです。
この部分は、時代の変化の影響を直接的に受けるものなので、かなり複雑です。また、辞書的理解では誤読になってしまう点も多いですし、離れた場所の規定もたくさん引用されているため、たいへん解りづらくなっています。
以下長くなりますが、個々の権利ごとに解説しましょう。
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・上演権及び演奏権(22条)
劇を演じたり、歌を唄ったり楽器を奏でたりする行為が、上演・演奏の典型例です。ただし、脚本を元に演劇を演じることは、第2条1項15号によって「複製」とされているため、ここでいう上演にはなりません。
第22条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
これだけを見ると、不特定多数へのライブ上演/演奏だけが対象のように見えます。しかし、これも第2条の定義規定で、日常語とは異なった意味づけがされています。
まず「公に」については、第2条5項で「この法律にいう『公衆』には、特定かつ多数の者を含むものとする。」とあり、不特定・特定を問わず多数が対象であれば含まれることになっています。そして第2条7項では「この法律において、『上演』、『演奏』又は『口述』には…(中略)…録音され、又は録画されたものを再生すること……及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」とあるため、録音・録画の場合も含まれます。なので、店内でCDを再生することも、ここでいう「演奏権」の守備範囲になるのです。
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・上映権(22条の2)
上映の定義は第2条17号で「著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする」とされています。
上演と比べ、(1)映写に限定されている、(2)テレビ放送などが含まれない、(3)「公に」という限定がない という点で違いがあり、重なる部分はあるものの、別個の概念です。
元々は映画の著作物のみに成立する権利でしたが、平成11年の改正で今のような汎用的なものに改正されました。
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・公衆送信権等(23条)
公衆送信は、不特定多数または特定少数に向けて著作物を送信する行為です。かつて「放送権」という権利だったものが、コンピュータ通信の普及にともなって拡張されました。サーバーのような、リクエストに応じて自動的に送信される配信を自動公衆送信と呼び、その実施や許諾を著作者の権利として認めています。この場合、権利の侵害は、サーバー等にアップロードした時点となり、誰も受信していなかったとしても侵害行為は成立します。
なお、送信と受信がセットで権利化されています。
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・口述権(24条)
公衆に向けて口述する権利です。
口述は、第2条18号で「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう」と定義されています。また、上演と同様、録画・録音されたものを含みます。
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・展示権(25条)
美術の著作物や、未発行の写真の著作物に関する、原作品を公衆に展示する権利です。なお、第45条に「美術の著作物若しくは写真の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これらの著作物をその原作品により公に展示することができる。」とあるため、所有者は、著作者の許諾がなくても、この規定に基づいて展示する権利が認められています。
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・頒布権(26条)
映画の著作物にのみ認められた権利です。
頒布という言葉は、辞書的には「有償または無償で配る」ことを言いますが、著作権法上は第2条19号で「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と定義されていて、貸与までも含んだものになっています。頒布権はこの頒布を許諾対象にできる権利です。
本来の形では、第一譲渡が合法であるかどうかを問わず主張することができます。隣接する「譲渡権」に存在する権利消尽(後述)の規定が書かれていないからです。この場合、著作者やその許諾を受けた者から合法的に譲り受けた人に対しても、二次譲渡や貸与(=中古販売やレンタル)を禁止できる権利となります。
ただ、この規定は劇場公開映画の独特のビジネス方式である配給制度を前提として制定されたものであるため、劇場公開映画のフィルムなどに対してのみ、限定的に働きます。大量生産される家庭用ビデオグラムなどでの頒布権は、合法的な第一譲渡によって使い果たされるため、著作者による中古販売禁止などはできません。
★中古ゲームソフト事件
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・譲渡権(26条の2)
譲渡権が対象とする譲渡は、著作物やその複製物を、譲渡によって不特定の人に提供する行為になります。
第2項では除外規定が並んでいますが、この筆頭に「前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物」とあります。つまり、著作権者は、自身や自身が許諾を与えた者が公衆に譲渡した著作物については、譲渡権を主張できないということです。わかりやすく言えば「一度売ったら、もうそこから先の売買には口出しできない」ということで、取引常識的には当たり前の話ですが、権利という見えないものが対象となる著作権では当たり前というわけにはいかず、必要に応じて個別に指定しておかなければなりません。なおこのように、第一譲渡で権利を使い尽くすことを「消尽」といいます。
譲渡権の存在意義は、“合法ではない第一譲渡”の先にあります。例えば海賊版が小売店で売られていたとしても、譲渡権という権利が設定されていなければ、著作者としては手が出せません。なぜなら、海賊版を作った業者は違法でも、そこから仕入れた小売店が事情を知らずに取引したのだとすれば、民法の「善意取得」が成立し、小売店の所有物として合法的に売買ができてしまうからです。そこで譲渡権という権利を支分権として規定しておくことで、このような場合にも直接差し止め等を行えるようにされているのです。
なお、権利消尽以外の除外規定としては、他に文化庁長官の裁定で使用が認められている場合など4種類が挙げられています。
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・貸与権(26条-3)
いわゆるレンタルの権利です。貸与によって公衆に提供することが、許諾権の対象となっています。頒布権の対象となる映画の著作物については、ここでは除外されます。
元々は、音楽の著作権だけを対象に登場しました。というのも、80年代にそれまで存在していなかったレコードレンタルというビジネスが登場、音楽産業の地位を脅かす勢いになり、そのとき産業界が運動して急遽制定させた権利だからです。現在では、著作権一般に存在する支分権です。この法的整備が整ったことから、ビデオレンタルの店が、コミック本のレンタルも扱うようになっていますね。また、貸与については、第2条(定義)8項に「この法律にいう『貸与』には、いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。」とあり、これによって売買を装ったレンタルのような脱法行為もカバーされています。
なお、第38条4項で、「非営利で無償の場合は公衆に貸与できる(映画の著作物を除く)」とされているため、図書館などでの貸し出しなどは、この権利の侵害にはなりません。
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・翻訳権、翻案権等(27条)
二次著作に関する許諾権です。「その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する」と規定されています。比較的シンプルな条文ですが、適応範囲はたいへん広いものです。こんにちのコンテンツ産業では、可能な限りメディアミックスを展開するのが常識ですが、そうした産業利用も本条に支えられていると言えるでしょう。また、翻案権は、盗作が問題になるときに根拠とされます。つまり、作品Aの作者が、他人の作った作品Bに対して「私の持つ翻案権の侵害である」として訴えるのです。なお、著作権の譲渡が行われた場合、この権利は契約上はっきりと書かれていない限り、移転しないものとされています(第61条)。