みんなの著作権―オンライン専用版―
第2部 じっくり編
4.著作権を持つ人

みんなの著作権 第2部 4章 著作権の主体

▶著作という行為は文化や芸術に属するものですが、著作権として権利化された物は、その文化や芸術を離れ、単なる「商品」として扱われます。著作者は権利を譲渡することでただの“作者”になりますし、譲渡を受けた人は著作をしていないにも関わらず、著作権者となります。このため産業的に利用でき、また著作そのものを事業内容とするような会社の存在も許すことになります。
▶ここでは、著作権の主体となる人や組織についてを述べていきます。

著作権者になれる人

 著作者になるためには、資格はありません。人間であれば、著作すれば誰でも著作者です。年齢要件もないので、小さな子供でも問題なく著作者になれます。また、事実上、国籍要件もありません。外国で行われた外国人の著作は 条約締結国であれば国内の場合と同じように保護されるため、結果として、地球上のどこで行われた誰の著作であっても、そのほとんどが日本国内で日本の著作権法に基づいて著作権が保護されることになります。
 しかし、著作者=著作権者という訳ではありません。著作権は所有権と同じように譲渡(法律用語としての“譲渡”は、有償・無償を問いません)することができる権利だからです。自分が著作しなくても、著作者から買うなり貰うなりすれば著作権者ですし、自分が著作しても譲ったり売ったりしてしまえば、もう著作権者ではありません。
 また、著作権は相続の対象になります。著作権者が、相続すべき人がいる状態で死亡すれば、民法の規定に従って相続されます。なお、相続すべき人がいない場合、その著作権は消滅し、作品は誰もが自由に利用できるもの=パブリックドメインになります。
 なお、法律上、権利の主体になれるのは人間だけですが、民事法では、出生によってこの世に登場してくる人間(自然人といいます)の他に、法人というものを認めています。法律が定める一定の要件を満たした場合、組織を「人」として扱い、権利の主体としての立場を認めるのです。このように説明するとすごく特殊なもののように見えますが、平たく言えば会社などのことで、実はごく一般的な存在です。私立学校や各種団体も法人になることができますし、一定の条件を満たしていれば、正式な法人でなくても、法人と同じ扱いになります。
 法人の権利は、その性質上ふさわしくないものをのぞいて、自然人と等しい扱いになります。当然、著作権者にもなれるわけです。

 猿に絵筆を持たせた結果すごい芸術作品ができたとしても、それは著作物ではありません。しかし、現代芸術の作家が構想のもとで意図的にそういう仕掛けを採り入れたのなら、それは著作物たり得ます。猿は彼の絵筆に過ぎないといえるからです。ソフトウェアが自動的に作った美術品の場合も、基本的に同じことが言えます。プログラマが単に技術的なテーマとしてチャレンジしただけなら、猿をしつけたのと同じです。しかし、芸術的な意図を持った上でアルゴリズムを実装したのなら、ソフトウェアを絵筆として使った芸術家ということになってきます。
 このあたりは、少し前までは教科書設例に過ぎませんでした。ただ、技術の進歩とともにリアルな問題となってきています。現実に、セミオートの作編曲環境なども市販ソフトとして存在しているわけで、そうして作られた楽曲の著作権の帰属は、大きな問題です。

 民法上の法人は、民法その他の法律で法人格が認められている場合だけを言います。しかし著作権法では、定義規定である第2条6項に「この法律にいう『法人』には、法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含むものとする」とあり、これによって法人の範囲が拡張されています。大学のサークルや市民劇団などでも、著作権では権利主体になれるということです。ただ、友達どうし集まって作ったユニットは、見なし法人には含まれません。
 法では、出生前の胎児はまだ人としては扱いません。ただし相続については「生まれているものとみなす」ルールになっています。そのため、胎児が自ら著作をすることはありませんが、著作権者にはなれるわけです。ちなみに、いつの時点で出生とみるかは、民事法では全部露出説(胎児の全身が出現した時点とする)を採ります。まだ頭しか出ていない状態で死亡したら、それは生まれなかったということになるのです。

会社が著作者になる場合

 法人は組織なので、実際の創作を直接することはできません。しかし、例えばコンテンツ産業において社員が行った創作の結果が、そのまま社員の著作物になってしまったのでは、会社としてはたまったものではないでしょう。そこで、一定の条件を備えた場合、法人が自ら著作したものとして扱われます。これを法人著作と言います(社員の側からみれば、職務著作といいます)。
 法人著作が認められるためには、条件があります。

 これらの条件は、かなり緩やかに解釈されています。個々に指揮をしていなかっとしても、包括的な指揮監督があれば1は認められます。また、2や3は実態に即して判断されるもので、雇用契約かどうかが直接問題になるわけではありません。外注の場合も、委任契約であれば認められる場合が多いと言えるでしょう。
 ただ、緩やかといっても、やはりけじめはあります。例えば、社員がプライベートで行った創作については関係ありません。また、仕事時間中の創作でも、指揮監督が全く働いていない状態で行われた著作なら、やはり職務著作にはなりません。「給料を払っている」とか「会社の機材を使った」ということは、職務著作の成立と直接には関係ないのです。
 法人著作が成立する場合、職務として実際の著作を行った社員には、いっさい権利はありません。例えば、退職後に自ら作ったタイトルの続編をリリースしたりすれば、著作権侵害として元の勤め先から訴えられることになります。

 ゲームなどのコンテンツ産業では、法人著作の成立には大きな問題があります。仕事の中で、随所に「クリエイターの自発性を重視する」側面が出てくるため、「法人の発意に基づく」要件の成立が疑わしいからです。著作権法が前提にしているのは「指示されたことを指示通りに仕上げていくだけの社員」ですが、少なくともオリジナル作品を手がけているような会社なら、こんな社員など給料を払う価値はありません。特に指示などしなくても勝手にどんどん作っていってしまうような社員が望まれているわけです。
 この問題は、実際には包括的な契約によってカバーしています。社員契約の中に、「勤務に伴って制作したものの全ての権利は会社に帰属するものとする」といった条項を入れることで解決するのです。内定の時点で書かせる承諾書に盛り込む場合もありますし、服務規程にその旨が書かれているだけでも契約としては有効です。
 それでも、「仕事時間中に内職で作った著作物」まで、カバーすることはできないでしょう。もちろん、払った給料の返還を求めることはできますし、また職務専念義務違反ということで処分することもできますが、追求できるのはそのあたりまでです。もしその社員が、本業と同じ内職をしたというのなら、逸失利益に基づく損害賠償請求もできるかもしれません。
 法人著作の場合、著作者人格権が疑問になります。明文では何の規定もありませんが、裁判実務では主張できるものとして扱われています。その場合の保護期間は、その法人が解散するまでということになります。

  ★宇宙開発事業団プログラム事件
  ★『ファイヤーエムブレム』事件

 フリーのクリエイターが会社と交わす契約には、委任契約の他に請負契約というものがあり、権利義務は全く異なるものになります。簡単に言えば、行為義務か結果義務かの違いです。「指示されたとおりに仕事をする」ことが義務付けられるのが委任、「指示された結果(成果物等)を出す」ことが必要なのが請負です。委任の場合、勝手に他人に再委任することはできません。また、指示どおりに仕事をすれば、結果が出せなくても報酬は受け取れます。請負はこの逆で、原則として他人への再請負も自由な反面、結果が出せなかったら債務不履行となります。
 これは契約書のタイトルがどう書いてあるかで決まるわけではなく、契約内容によって違ってきます。実務的には「契約書をしっかり作る」で(そしてクリエイター側としては『判を押す前にしっかり読む』ということで)解決すべき問題です。

二次的著作物への権利

 著作物ならではの利用方法として、二次著作というものがあります。ある著作物を元に別の著作物を作るということです。コミックを元に作られたアニメというのがよくありますが、これは二次的著作物の典型例です。
 二次的著作物から見た元の著作物を、原著作物といいます。原著作物の著作者の権利は、二次的著作物に対しても及びます。つまり、二次的著作物をさらに翻案するなどの場合も、原著作者の許諾が必要だということです。例えばコミックを原作にしたアニメを元に映画を作る場合、アニメ製作会社の許諾をとるだけでは不足で、原作を描いた漫画家の許諾もとらなければなりません。
 この原著作者としての権利は、部分に対しても及びます。例えば、原作付きコミックの主人公について、作画を担当した漫画家が単独で行ったキャラクター絵の使用許諾が、原作を担当した小説家によって差し止められたという事例があります。キャラクターの絵それ自体は漫画家が自分で考えて実体化したものですが、それが作品の一部である以上、原著作者の著作権が及ぶものとされたのです。
 なお、二次著作を認める権利は、法的には翻案権となります。著作権の実務では「映画化権」「商品化権」などと呼ばれることがありますが、これは契約上発生する権利義務に対する呼び名で、著作権とは別のものです。

  ★「キャンディ・キャンディ」事件

 二次著作物の利用に関する原著作者の権利は、第28条で次のように規定されています。

第28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 著作権の支分権には著作物の種類を限定しているものもありますが、この規定によって超越されることになります。例えば小説は言語の著作物ですが、「それを元に作られた映画の著作物」に対して28条の権利を持つことで、作家も上映権の権利者になれるわけです。

 著作権譲渡を規定する第61条では、2項で翻案権および二次著作に関する権利についての例外規定を設けています。

第61条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

 つまり、著作権が「いっさいの権利」というような形で譲渡された場合でも、これらだけは除かれるということです。そのため、これも含めて権利を移転したい場合(産業利用ではほとんどそうなります)は、「第二十七条および第二十八条に規定する権利も含め」というように、しっかり書いておく(知財法用語では『特掲』という言葉で言い表します)必要があります。とはいえ、これは「みなす」ではなく「推定する」規定であるため、反証によって覆すことも可能です。

外国との関係

 その国の著作権法が直接対象にしているのは本来はその国の著作物だけです。しかし、いくつかの国際条約を通じて保護が図られていて、「相手国の著作物でも、自国の著作物と同じと見なして、権利を保護する」(内国民待遇の原則)が、ほとんどの国で採用されています。日本ももちろん加盟国で、同じ加盟国の著作物であればこの原則に基づいて保護しています。
 ここで問題になるのが、国ごとの制度の違いです。特に、保護期間の違いと、著作権成立の要件の違いです。
 まず、保護期間の違いについて。現在では日本も欧米諸国と同じ70年を保護機関としていますが、2017年までは50年でした。こういった場合に採用されるのが「相互主義」という考えです。これは「自国よりも短い保護期間を定めている国の著作物は、その国の保護期間を適用する」というものです。旧規定では、欧州諸国の著作物は、日本国内では50年で保護期間が終了します。そのため、日本の著作物も欧州諸国では50年で期間が終了するのです。
 著作権成立の要件は、登録などの方式を必要とする国において、そうでない国の著作物をどう守るのかという問題です。かつて米国では、著作権の発生には「発行」と「著作権表示」という条件が必要でした。一方日本や欧州諸国では著作と同時に著作権が発生するという考え方(=無方式主義)です。このままだと、日本や欧州の著作物は、米国内で発行されるまで「著作権なし」となってしまいます。これでは困るため、 ©S.Yamada 2022 というように著作権表記をしておけば、方式主義国においてはその日に所定方式が満たされたものとみなすという制度が、国際条約によって導入されました。なお現在ではほとんどの国が無方式主義に移行しているため、 ©表示はこの意味では必要ないものとなっています。

 他、日本独自の事情として、保護期間の戦時加算を考慮しなければなりません。
 これは、第二次大戦の連合国のいくつかに対して、保護期間に加算分を加えるというものです。「戦争していた期間は敵国の著作権など守らなかったはずだから」という根拠から、それぞれの国ごとに加算すべき期間が決められています。なお、連合国といっても全てではなく、サンフランシスコ講和条約に参加しなかったロシアや中国は対象になっていません。
 第二次大戦をはさむというのはずいぶん古い話ですが、現実にミッキーマウスやキューピーなど、戦前に作られたキャラクターが今でも商品価値を持ち続けている例は少なくないため、制度を理解しておく必要性は続いています。

 知的財産権を扱う国際条約は、細かなものも含めればたいへん多数存在します。著作権分野で重要なものを挙げれば、次の4つです。

  • 1)著作権に関するヴェルヌ条約(1899年締結;WIPO世界知的所有権機関)
  • 2)万国著作権条約(1956年締結;UNESCO国際連合教育科学文化機関)
  • 3)TRIPS協定(1994年締結;WTO世界貿易機関)
  • 4)WIPO著作権条約(2000年締結;WIPO世界知的所有権機関)

 1は著作権の相互保護のために作られた条約で、著作権保護に関する初の包括的な多国間条約となります。内国民待遇原則を主目的として導入されました。2は、方式主義国と無方式主義国の間の溝を埋めるために制定されました。3は世界貿易機関(WTO)の協定で、ヴェルヌ条約と同じ保護を加盟国に課すものです。これによって世界の大半の国が著作権保護の条約を共有することになりました。また、プログラムを著作権で保護する取り決めも、ここで決められています。4はヴェルヌ条約をインターネットの時代に対応させるために拡張したものです。
 3や4では無方式主義が採用されているため、これらの加盟国では国内制度をそれにあわせて改める義務がありました。その結果、世界のほとんどの国が無方式主義に移行したため、現在では2はあまり意味のないものになっています。

 戦時加算の期間は、「連合国および連合国民の著作権の特例に関する法律」を根拠法として、具体的に次のように決まっています。

  • 米、英、豪、加、仏 3794日
  • ブラジル      3816日
  • オランダ      3844日
  • ノルウェー     3846日
  • ベルギー      3910日
  • 南アフリカ     3929日
  • ギリシャ      4180日 など

 1941年12月8日から平和条約の発効日前日までとなっているため、細かな違いが出ているのです(条約は、締結後それぞれの国内で批准―方法・手順は国ごとに異なる―が行われることで発効します)。
 戦時加算は、実際には敗戦国に与えられたペナルティといえるでしょう。本来この理由ならお互い様なわけで、日本だけが一方的に保護期間を延長しなければならない必然性はないからです。

  ★キューピー著作権事件
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