みんなの著作権 第1部 著作権法オーバービュー
何かに興味を持って学ぼうとしたとき、頭の中は白紙ではありません。断片的にであるにせよ、対象への知識が入っています。特に実務として取り組んでいる人の場合、部分的にはかなりの深さを持っているものです。
世に入門書はいろいろありますが、その多くが白紙状態の読者を想定しているため、既にある程度知っている人には、隔靴掻痒な感があります。
かっとび編は、一気に読んで一気に理解するためのパートです。まずざっと通して読んで、自分の知識を確認してみましょう。そして疑問を感じる部分があったら、▶で示しているキーワードをクリックしてください。
なお、ここでは著作権法の条文や判例などは、原則として参照しません。また、用語の使い方も、正確さよりも理解しやすさの方を優先しています。
創作されたものは、著作物として扱われます。
著作物を作った人が著作者、そして著作物によって発生する著作者の権利が著作権です。
著作権は、創作によって自動的に発生します。手続きなどは必要ありません。
多くの知的財産権(特許、商標、意匠)には特許庁への登録が必要なのですが、こと著作権に関しては不要で、創作と同時に発生するという仕組み(=無方式主義といいます)をとっています。にも関わらず、登録制度が存在します(登録先は文化庁)。
具体的には、次のようなことを登録できます。
- ・ペンネームを使っている著者の実名
- ・第一発行年月日
- ・創作年月日
- ・著作権・著作作隣接権の移転など
- ・出版権の設定
- ・ソースコード(プログラムの著作物に限る)
一般的効果という意味では、登録制度があるのは、主に次の目的のためです。
- 1.起算日をはっきりさせる
- 2.現時点での権利者をはっきりさせる
- 3.二重譲渡などがあった場合の勝敗基準として
著作権の存続期間は、著者の死亡から起算されます。しかし、匿名の著作物の場合はそれができないため、公開時点から起算されることになります。「それでは困る」という人は、実名登録を行うことで、通常通りの扱いにすることができるのです。また、法人が著作者となる場合でも、プログラムなど著作権表示を見せないまま公開する著作物にとって、1の必要性は大きいといえます。
また、権利というのは、見ることができません。それを見えるようにすることを「公示」といいます。著作権登録は、公示機能を持っています。これが2の意味です。
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そして3は、この2番の応用です。
例えばあなたが音楽家Aさんから彼の作った楽曲の著作権を購入したとします。ところが、Aさんが同時にBさんにも同じように売っていたら、どうなるでしょうか。契約はどちらも成立しています。しかし売買である以上、購入できるのはどちらか一方だけです。
このような場合に決着を付けられる力を対抗力といいます。勝敗の基準は簡単で、対抗力を持っている側の勝ち。なので、このときBさんが著作権の移転を登録していたら、あなたの負けです。Aさんに対して損害賠償の請求をすることはできますが、著作権の取得についてはあきらめるしかありません。そのため、取引の安全のためには、契約と登録をセットにすべきなのです。
ちなみに、不動産には同じ主旨で登記という制度があります。権利というものは目に見えないため、この種の二重譲渡が起こりうるわけですね。実際、不動産登記は、売買などの取引の際にはほぼ100%用いられています。
ただ、注意しなければいけないのは、あくまでも対抗力だけだということ。登録が真実と異なっていた場合、優先されるのは真実の方なのです。例えばAさんが、元々楽曲を登録していない状態で権利をC社に譲渡し、その後新たに登録してからあなたに売ったのだとすると、そもそも登録の時点で権利がなかったわけですから、最初から真実ではなく、あなたであれBさんであれ、その対抗力をC社に主張することはできません。
著作権の中心は「勝手に複製されない権利」です。
これを中心にいろいろな権利が束になっています。
著作権は、民事法上、所有権と同じ扱いになる権利です。
譲渡することもできますし、権利は自分の手元にとどめたままで、その使用を許可する(=ライセンス)こともできます。
法人も著作者になることができます。
法は、人間の集団を「人」として扱う場合があり、このような場合の「人」を「法人」といいます。
法人も人なので、著作者になることができます。例えば会社で作ったゲームソフトなど。この場合の著作者は、会社に属するクリエイターではなく、法人である会社自身です。このような場合を「法人著作」(クリエイターの側から見れば“職務著作”)といいます。
ある著作物を元に作られた別の著作物を、二次的著作物といいます。
そして二次的著作物から見た元の著作物を、原著作物といいます。
二次的著作物の作者は自身の著作権を持ちますが、原著作物の著作者はそれと同じ権利を(併存的に)主張することができます。つまり、二次的著作物をさらに翻案するなどの場合も、原著作者の許諾が必要だということです。
著作権は、一定の条件下で他人の自由な使用が認められます。
著作権者は、いつどんな場合でも主張できるわけではありません。代表的なものは、個人の私的な使用のための複製、そして引用です。それ以外にも、詳細な規定が決められています。
「個人または家庭内およびそれに準じる限られた範囲内での使用」という条件で、使用者による自由な複製を認めています。兄弟間での融通はOKですが、友人間の場合ですと「家庭内に準じる」とは言えなさそうですから、同居でもしていない限りNGです。また「家庭内」ですから、個人がプライベート用に買ったソフトを会社でも使うという行為も、私的使用とは認められません。
また、次のどれかに該当する場合は、私的使用であっても複製が認められません。
- 1)公衆自動複製機器を用いた複製
- 2)技術的保護手段がかけられている物について、それを回避しての複製
- 3)著作権侵害の自動公衆送信を受信して行うデジタルの録音・録画(侵害を知っている場合に限る)
- 4)同じく、侵害を知りながら受信して行うデジタルの複製一般(軽微でないものに限る)
1が対象にしているのは、実際にはビデオテープのダビング(複製)機です。家庭用ビデオデッキが普及してきた頃、そういう装置があったのです。しかし、自社ビジネスの妨げになると思ったコンテンツ業界が当局に働きかけた結果、法が改正され、このように直接排除するような条文が盛り込まれました。装置そのものが消滅してしまった現在では意味の分かりづらい規定です。なお、文面の上ではコピー機一般があてはまりますが、実は著作権法の附則で「当分の間、もっぱら文書または図画の複製に供する物を含まないものとする」と規定されてあり、除外されています。
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2が規定している「技術的保護手段」というのは、コピープロテクトないしアクセス制限のことです。これらを回避して複製する行為が、違法とされています。回避しないで複製する分には問題ありません。
3が対象にしているのは、音楽や映像のコンテンツです。2000年代になってインターネットの普及でユーザー間でのファイル交換が行われるようになり、従来の規定では権利の保護が難しくなってしまいました。そこで、特に問題が大きかった音楽と映像に限って、その複製を私的使用であっても違法化したのです。
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4の対象は、音楽・映像を除いた著作物一般です。3が導入されてから約10年後に追加されています。その間にインターネットはさらに普及、違法化の対象を拡げる必要が出てきたのです。ただ、二次創作やスクリーンショットなど、配慮しなければならないことも多かったことから、単に3の対象を広げてよしとするわけにはいかず、除外されるものを細かく規定した上で、別号として規定されています。
著作権の対象になるのは、創作されたものです。
作品の中に込められた思想やアイデアなどは保護対象外ですし、書かれている事実そのものも保護されません。また、タイトルにも認められません。
デザインの著作権は制限的です。
工業製品や印刷物など、通常デザインと呼ばれるものは著作権法では「応用美術」とされ、著作権の対象になる場合が限定されます。ただし、美術工芸品の場合、著作物として扱われます。なお、工業製品には著作権以外にも知的財産権を守る方法があります。
プログラムは、特別の規定が設けられています。
成立条件や権利の範囲が著作物一般とは違うものになっています。また、データベース著作物についても、あわせて規定されています。
映画の著作物には特別な規定があります。
著作者は「全体的に創作した者」(通常は監督)とされます。ただし、財産権としての著作権を行使できるのは、製作者(通常は製作会社)とされています。また、「映画は、脚本を元に作られている」という考えから、脚本家は一レベル上の著作者としての権利を持ちます。
なお、映画著作物だけに認められた特別な権利として、勝手に販売などすることを禁止できる権利(=頒布権)があります。これによって中古流通なども禁止することができますが、認められるのは劇場公開用のフィルム等に限られ、家庭用のDVDなどには適用されません。
簡単に言ってしまえば、「財産権は製作会社に、人格権は監督に」ということです。
考え方を述べると、こうなります……「本来は関係したスタッフの共同著作といえるが、監督がそれを代表して著作者となる。ただし権利は自動的に製作会社†に譲渡されるため、監督に残るのは著作者人格権だけである」。
著作権法の原則では、共同で作られた作品の著作権は、全員が持ちます。映画は、多くのスタッフが集まって作る共同作品であることを考えると、本来であればこれが適用されるべきなのですが、その人数は数十人から数百人という規模になってしまい、現実的ではありません。そこで、監督一人に著作者としての権利を代表させます。そして、実際に人・金・現場を手配し費用を負担しているのは会社なので、そこが費用を回収できる仕組みを作っておく必要があり、財産権部分はただちにそちらに譲渡という形で、全体の制度を調整したのです。
これは、映画業界の意向が強く反映されて作られた仕組みです。というのも、こういう形の制度が設けられた時点ではまだスタジオ制が残っていて、映画会社は配給網に加え制作部門も持ち、自社のスタッフ・キャストを使って直接制作を行っていたからです。
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今日では、出資者と制作会社が異なるのが常です。その代表的なものが「製作委員会」方式。これは、スポンサー企業を複数集めて製作委員会を組織、そこが制作会社に発注して映画を作るという方式です。これによって、出資した会社は、著作権の共有者として経済的利益を得ることができるのです。製作会社が作品を企画、スポンサーを集めるとともにクリエイターや制作会社を手配して主体的に映画製作を行っていくスタイルが想定されていますが、実際には個々に異なります。制作会社が制作費調達のために進めることもありますし、また応じるスポンサーにしても、純粋に投資案件として出資する場合もあれば、窓口権‡自体に価値を見出す場合もあります。
このようなわけで、映画会社の一元的製作を前提にした従来の制度はどうにも合わなくなっていますが、監督たちの抗議を圧殺して導入を図ったという経緯から、この手直しはなかなか容易ではありません。
美術品の場合、所有権との関係が問題になります。
例えば画廊で絵を買った場合、所有権は買い手のものですが、著作権まで移転するわけではありません。所有者であれば展示権が認められるので、展示したり、また展示会の案内状に印刷したりすることができますが、それ以外の行為は無許諾で行うことはできません。そのため、勝手に写真撮影などをすることは著作権侵害となってしまいます(公共の場に展示してあるものを除く)。なお、著作権には期限がありますが、所有権は永久です。その結果、著作権切れの美術品について、所有者は事実上独占的に扱うことができます。
演奏家・俳優・ダンサーなどは、著作者に近い権利を認められます。
これら著作物を“実際に演じる”人たちを著作権法は「実演家」と規定、著作権とは異なる独自の権利を認めています。これを著作隣接権といい、本来の著作権と抵触しないような形で権利が決められています。
著作隣接権は、実演家の他、放送事業者とレコード製作者に認められています。
許諾することができる権利として、次の4通りが規定されています。
- 1)複製権
- 2)送信可能化権
- 3)譲渡権
- 4)貸与権
他、商業レコードを対象にした二次使用料請求権と貸与にかかる報酬請求権が認められています。
また、「侵害とみなす行為」の一つとして、日本国外で発行された商業用レコードを日本国内に頒布目的で輸入する行為が規定されています。これは海外向け邦楽盤の国内還流を防ぐという目的で2005年に導入されたもので、実際の運用としては、レコード会社が対象盤に「日本販売禁止」などの表示を行い、国税庁に対して輸入禁止を申し立てるタイトルを申告することで実施されています。つまり、レコード会社としては自らの選択で任意に輸入禁止をかけられるため、権利とみなすことも可能です。俗に「レコード輸入権」と呼ばれることもあります。
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注意を要するのが、1の複製権です。これは「レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する」というシンプルな規定ですが、一般に「原盤権」と呼ばれる強い権利をレコード製作者に与えます。これは著作権とは独立した財産権で、原盤権を持つ者は著作者の許諾を得ることなく、商業レコードを生産できるというものです。
アナログ時代、レコードの原盤製作には大がかりな投資を必要としました。もし著作者が著作権を振りかざし無理な要求をしてきたら、レコード会社は大きな損失を被ることになります。そこで、著作権とは独立した財産権としての原盤権を認める必要があったのです。
ただ、デジタル化された今では、原盤といってもしょせんは電子媒体に過ぎませんし、レコーディングも必ずしも大規模なスタジオを必要としません。その意味で既に時代から外れた規定なのですが、現段階では知っておく必要があります。
出版社は、著作物の出版を専有できる権利を持つことができます。
これは出版権といい、著作者との間で出版権設定契約を結ぶことによって設定されます。登録することによって、第三者に対しても主張できる権利になります。
著作権の存続期間は、基本的に著作者の死後70年です。
著作者が匿名や変名あるいは不明の場合は、公開から起算します。団体名義の場合や映画の著作物も公開からの起算です。著作隣接権も存続期間は70年ですが、起算時が個別に決まっています。
なおこれらは月日ではなく、年単位です。死亡日ではなく、死亡日の翌年1月1日を起算日とし、満70年が経過したことで、著作権消滅となります。
海外の著作物については、相互主義から、70年とは異なる期間となる余地があります。
相互主義とは、相手国の著作権存続期間が自国のそれよりも短い場合は、相手国の側に合わせるというもの。例えばX国の著作権存続期間が30年であった場合には、日本でX国の著作物を利用する場合、30年が経過すればパブリックドメインとなり、自由な利用が可能になります。これがなぜ「相互」なのかというと、相手のX国では日本製著作物は30年でパブリックドメインになるからです。
最近まで、日本は「50年」という、欧米諸国の水準でいえば短い方になる存続期間を持っていました。それらの国では著作権は70年存続しますが、その国においても日本製著作物は50年でパブリックドメインとなっていたのです。現在でも、かつての日本と同じ50年としている国は多く残っており、それらの国の著作物については、日本国内でも50年で権利終了となります。
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国によっては、戦時加算というものが加わる場合があります。
これは、第二次世界大戦の連合国側の国に対して、開戦から平和条約批准までの日数分、著作権有効期間を延長するというものです。実際には10年程度になります。
連合国といっても全てではなく、対象国は15ヶ国。主要なところでは、ロシア・中国が含まれていません。
著作者には、著作権とは別に、著作者人格権が与えられます。
著作物は、著作者の思想や価値観などを反映したものでもあることから、プライスレスな権利が著作権と別に認められています。①無断で公表されない権利、②公表時の名義を省略されたり変更されたりしない権利、③勝手に内容を変えられない権利の3つです。また、これ以外に「名誉や声望を損なわれるような使われ方を禁止する」という規定があり、これを「名誉声望保持権」と呼んで、第四の著作者人格権とする考えもあります。
著作者人格権は「一身専属」の権利なので、本人が死ぬと終わります。また、譲渡できませんし、相続の対象にもなりません。
「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」といいます。
実務的には、同一性保持権を巡る問題がいちばん多いです。
作品が世に出るためには多くの場合編集が必要です。例えば写真のトリミングや被写体の再構成などは必要性が高いですし、文章メディアであれば、用語用字の統一を図る目的での書き換えも頻繁に行われます。こうした、編集する側からすれば「編集行為の当然の結果」に過ぎないものが、写真家・イラストレーターやライターにとっては「作品の無断改変」となってしまうことが少なくないのです。
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公表権・氏名表示権・同一性保持権の3つは、著作権法の前の方で同じ章にまとめて記述されていますが、4番目の“名誉声望保持権”は、それを定める直接の規定はなく、後ろの方で「侵害とみなす行為」の一つとして規定されています。そのため、正しい法律解釈で言えば、これは“事実上の権利”で、著作者人格権そのものを構成することにはなりません。
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