第31条以下では、著作権者にとって権利が制限される場合がカタログ的に並べられています。
正直なところ、条文のこの部分は、たいへんわかりづらくなっています。特に新しい改正であればあるほど、読まれることなど全く考慮していない、言い訳のための文章としかいいようのないものになっています。私たち国民の権利義務に直結する問題であり、「知財立国」を活かすも殺すもここにかかっていることを考えると、怒りすら感じるほどです。
本文では類型化にとどめましたが、アドバンスドでは本文の類型に沿ってまとめた上で、個別に説明します。
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★図書館での複製や裁判手続きのための複製
・図書館等における複製(31条)
図書館(その他の施設で政令で定めるもの)では、図書などの複製による公への提供が認められています。
- 1)利用者の求めに応じ、調査研究用に、著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合(発行後時間のたっている定期刊行物に掲載された個々の著作物については全部でも可)
- 2)図書館資料の保存のため必要がある場合
- 3)他の図書館等の求めに応じ、絶版などで入手困難な図書館資料の複製物を提供する場合
また、国立国会図書館には、滅失・損傷などを避けるための電子化が認められています。
この条文の主語は「図書館」です。ただ1については、実際には利用者自身が図書館に設置されたコピー機を使って行っている場合が大半でしょう。そこでは、どの資料をどれだけコピーしたかは自己申告制ですし、「本は半分まで、雑誌論文は1本だけ」というように決められるなど、この規定を受けて図書館の側が作ったルール下で行われます。なお、図書館側から著作権者の団体へは補償金が支払われており、その配分は利用者の申告にもとづいて行われています。
現実問題として、調査研究目的なのか娯楽学習目的なのかは判断のしようがなく、また本当に「半分まで」等のルールが守られているのかもノーチェックでしょう。しかし、法的にはこのような義務があることを、図書館利用時には理解しておくべきです。
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・裁判手続等における複製(42条)
裁判手続のために必要な場合や、立法・行政の目的のために内部資料として必要な場合には、その必要と認められる限度において、複製することができます。ただし、当該著作物の種類・用途・その複製の部数・態様といったものが、著作権者の利益を不当に害することにならないようにしなければなりません。
なお、次の場合も、ここに含められます。
- 1)行政庁の行う特許・意匠・商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価、国際出願に関する国際調査・国際予備審査の手続
- 2)行政庁・独立行政法人の行う、薬事に関する審査・調査、行政庁・独立行政法人に対する薬事に関する報告の手続
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・行政機関情報公開法等による開示のための利用(42条の2)
行政機関などの長は、各種情報公開法令に基づいて、著作物を利用することができます(つまり文書をコピーして渡してもいいということです)。なお利用の方法や除外規定などは、それぞれの法令で決められています。
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・国立国会図書館法によるインターネット資料の収集のための複製(42条の3)
国立国会図書館の館長は、国立国会図書館法が規定する収集のために、必要と認められる限度において、インターネット資料を媒体に記録することができます。また、行政機関等が国立国会図書館法で納本義務を負う出版物を発行した場合、インターネット資料を提供するために必要と認められる限度において、著作物を複製することができます。
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★視聴覚障害者のための複製など
・視覚障害者等のための複製等(37条)
公表された著作物は、点字として複製することができます。記録媒体への記録や公衆送信も含みます。
また、(政令で定める)福祉事業者は、視覚障害者のために、視覚表現の著作物を音声化して記録・複製・自動公衆送信化することができます。
ただし、対象となる視覚著作物が、著作権者側で同じ方式による公衆への提供などが行われている場合を除きます。
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・聴覚障害者等のための複製等(37ー2条)
前条の規定を、聴覚障害者のために逆向きにしたのが、この第37条の2の規定です。
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★学校など非営利教育の授業で使用するための複製
・学校その他の教育機関における複製等(35条)
学校での授業過程で使うために、複製することや、それを上演などすることが許されます。
- 1)その授業を担当する先生や受講する児童生徒によって行われること
- 2)必要と認められる限度ですること
- 3)著作権者の利益を不当に害することにならないこと
この3つが条件です。対象となる学校は、営利目的ではない学校に限られます。
なお、2018年の改正で、公衆送信についてのみ、補償金請求権が発生することになりました。これは、インターネットなどを利用した遠隔授業の導入を目指してのものです。権利規定を整えることで、積極的な利用を促進する狙いがありました。
この改正は、法案成立3年後に施行される予定でしたが、コロナ禍による必要性の高まりに応じる形で、2020年4月に前倒しされています。
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★試験のための複製、非営利の上演・上映や公衆伝達
・試験問題としての複製等(36条)
入学試験や検定試験などの問題として複製・公衆送信することができます。
営利目的でも使用はできますが、その場合は通常の使用料の額に相当する補償金を著作権者に支払わなければなりません。
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・営利を目的としない上演等(38条)
非営利目的で無償で提供される場合、次のようになります。
- ・上演、演奏、上映、口述が認められます。ただし、実演家などに報酬が支払われる場合は、認められません。
- ・放送される著作物について、有線放送することができます。また、その放送の対象地域に限定されたものであれば自動公衆送信を行うことができます。
- ・放送・有線放送される著作物は、パブリックビューイングできます。大型装置だけではなく、通常の家庭用受信装置を用いてする場合も同じです。
- ・映画の著作物以外は、貸与することができます。
- ・映画の著作物の貸与は、政令で定められた視聴覚教育施設や聴覚障害者のための福祉事業者でのみ、認められます。
この場合、著作権(財産権)を行使する者に対して、相当な額の補償金を支払わなければなりません。
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★小中高校用の教科書への掲載、学校教育番組での放送
・教科用図書等への掲載(33条)
小中高校で使われる教科書への掲載が認められています。この場合無償ではなく、著作権者には文化庁長官が決めた補償金が支払われます。
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・教科用拡大図書等の作成のための複製等(3条の2)
障害児教育のために拡大コピーなど必要な方法で複製することが認められています。第33条の主語は「出版社」だけですが、こちらは「先生」なども主語になり得ます。
全部または相当部分を作成する場合は、オリジナルの発行元に通知しなければなりません。また営利目的の場合、著作権者に教科書の場合と同じ補償金を支払う必要があります。
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・学校教育番組の放送等(34条)
学校教育のために、番組で放送(有線放送含む)や対象地域を限定した自動公衆送信を行ったり、そのための教材に掲載したりすることができます。
対象となる学校は、学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠した学校です。
この著作物を利用をする者は、その旨を著作者に通知し、また相当な額の補償金を著作権者に支払わなければなりません。
・放送事業者等による一時的固定(44条)
放送事業者や有線放送事業者は、放送/有線放送のために、著作物の一時的録音・録画ができます。
この録音物・録画物が保存しておけるのは、6ヶ月までです。ただし、政令で定める公的な記録保存所で保存する場合は別です。
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・美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条)
美術の著作物や写真の著作物の原作品の所有者は、これらの著作物をその原作品によって公に展示することができます。ただし、屋外など公衆の見やすい場所に恒久的に設置することはできません。それをすると次条が適用されてしまい、著作者の利益を害してしまうことになるからです。
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・公開の美術の著作物等の利用(46条)
原作品が屋外に恒久展示されている美術の著作物や、建築の著作物は、次に掲げる場合を除いて、利用することができます。
- 1)彫刻を増製したり、その増製物を譲渡によって公衆に提供すること
- 2)建築の著作物を建築として複製したり、それを譲渡により公衆に提供すること
- 3)屋外の場所に恒久設置するために複製すること
- 4)専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製したり、それを販売すること
★バス車体のペイント画事件
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・美術の著作物等の展示に伴う複製(47条)
著作権者の持つ展示権(第25条)を害することなく美術の著作物・写真の著作物の原作品を展示する人は、観覧者のために、解説・紹介を目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができます。美術展で販売されている図録は、かつてはここでいう小冊子という名目で作られていました。
★ダリ事件
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・美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(47条の2)
美術の著作物・写真の著作物で、所有者など譲渡・貸与の権原を有する人が、譲渡権(第26条の2)・貸与権(第26条の3)に規定する権利を害することなく譲渡・貸与しようとする場合は、見本としての複製の提供や公衆送信を行うことができます。なお、このためには、複製防止・抑止のための措置を講じておかなければなりません。
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・プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の3)
プログラムの著作物を複製物によって所有している人は、自分が使うために必要な限度で、複製や翻案をすることができます。ただし、所有しているものが違法な方法で複製されている場合を除きます。なお、この複製は、滅失以外の理由で所有権を失った場合は、複製物を保存しておくことはできません。
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・電子計算機における著作権の利用に付随する利用等(47条の4)
コンピュータの効率的な利用にあたっては、複製に類する行為が行われる場合があります。例えばキャッシュ処理がそうですし、またネットワーク上では更に大規模な一時保存も行われます。この条文では「著作権者の利益を不当に害することがない」という留保付きで、それらを認めています。また、記録媒体内蔵複製機器の保守・修理を行う場合には、そこに記録されている著作物を、必要と認められる限度において、一時的に記録することができます。この場合は、終了後の保存は認められません。
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・電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(47条の5)
ニュービジネスに対応した除外規定です。例えばビッグデータの収集やGoogle型のサーチエンジンが行う複製などを想定しています。条文には、とてもここには書ききれないような「除外の除外」が細かく入り組んだ文で規定されていて、ほとんど悪夢のようなものとなっています。
なお、旧法では、これらの内容は47条の6~47条の9で規定されていましたが、2020年の改正でここにまとめられました。
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・翻訳、翻案等による利用(47条の6)
著作物が、これらの制限規定によって利用可能な場合に、翻訳・翻案・変形なども併せてできるものについて、個々の条文番号でリストしています。
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・複製権の制限により作成された複製物の譲渡(47条の7)
著作物が、これらの制限規定によって複製可能な場合に、その複製物の譲渡も可能なものについて、例外規定も併せて、個々の条文番号でリストしています。
例えば、小説を書いた人が、単に挿絵として使う目的で美術作品を“引用”したりすることは許されません。3に反しているからです。とはいえ、この意味で正当化されるものなら、文章の著作物の中にマンガの一部を引用するようなことも許されます。
なお、「公正な慣行」として通常求められることは、次の3点です。