みんなの著作権―オンライン専用版―
第2部 じっくり編
5.著作権が制限されるとき

みんなの著作権 第2部 第5章 著作権の制限

▶著作権は独占的な権利ですが、どんなときにも全面的に支配できるのではなく、一定の条件下で他人の使用を認めなければいけません。そして、認めるあり方も多様です。単に許諾権が主張できないだけ(=対価はもらえる)の場合もあれば、無償での自由利用を認めなければならない場合もあります。
▶この章では、そうした著作権が制限される場合を扱っていきます。

他人の著作物の利用

 所有権をはじめとした私権が最大限尊重されるのは、近代法の原則です。一方で、公共の福祉に反した主張は許されないというのも、近代法の原則です。実際の権利は、このふたつの原則の間でバランスをとって決めていかなければなりません。
 著作権も、この視点から考える必要があります。権利は尊重されるべきですが、絶対ではありません。制限が存在することは、むしろ当然なのです。
 これは、3通りに分類できます。
 まず、私的な目的での使用の場合です。個人あるいは家庭に属する範囲で行われる場合、著作権者は複製権の侵害を主張することができません。
 次に、公共目的の場合があります。図書館での点字翻訳や教育目的などで、個々に認められる場合が決められています。
 そして、公正な慣習に基づいて行われる使用があります。著作物は、単独で生まれてくることはなく、先人たちの作ってきた成果があって成り立つものです。また、同時代の著作物とも、相互に影響を与えあっています。いわば、他の著作物を利用した結果として作られているわけですから、著作者が他人から自身の著作物を利用されることも、一定の範囲で受け入れなければなりません。
 著作者の立場から見れば「制限」ですが、利用者の側から見れば「自由」となります。ですので、この章はむしろ「著作物が自由に利用できるとき」という視点で見た方が、理解しやすいでしょう。とはいえ、著作者の権利が基本的に尊重されるものであることは、大前提です。利用できる場合も、著作者にとって著しい不利とならないことが、求められているのです。

 民法にはもう一つ重要な一般則、「権利濫用の禁止」というものがあります。これは次のように規定されています。

民法第1条3項 権利の濫用はこれを許さない

 法律上正当な権利であったとしても、それが濫用であると認められる場合は、効力は否定されるということです。
 本章で述べるさまざまな制限事項は、この権利濫用禁止則を反映したものといえます。著作権者による主張が濫用に該当するような例をあらかじめピックアップした上で、「このような場合には権利は主張できない」と規定しているのです。とはいえ、これに該当しなければ濫用にならないというわけではありません。

 このテーマに関連し、「フェアユース」という概念の導入が一部から強く主張されています。
 これはアメリカ法での考え方です。日本法では、権利が制限されるケースを細かく記述しているのですが、フェアユース法理の場合では「公正な利用の場合は、権利は制限される」という一般則を規定します。

  • 1)利用の目的や性格
  • 2)利用される著作物の性格
  • 3)利用される著作物全体としてみた場合の、被利用部分の量や本質性
  • 4)利用される著作物の潜在的な市場または価値に対して利用が与える効果

 個別には、この4つのファクターから、“フェアユース”(公正な利用)かどうかを検討していくわけです。とはいうものの、実際のところ、ここからの演繹で判断していくことは無理で、個別ケースごとに裁判所が判断、その前例が蓄積されて法規範が形成されるという建付けになります。
 このような体制下では、新しいものが出てきた場合に、柔軟に対応できます。日本法の方式は、時代の変化によって新しい著作物が出るたびに条文を変えていかなければなりません。実際、その結果として、極めて煩雑な条文(構成ばかりかその書き方も)になってしまっています。
 また、そのような規定の存在が、技術の進歩によって登場するはずの新しい利用方法を、事前につぶしてしまっているという懸念もあります。例えばGoogleのようなサーチエンジンは、以前の著作権法では存在が許されませんでした。サーチエンジンを動かすためには、自前のサーバー上に世界中のウェブページをコピーしたデータベースを作り、そこからキーワードを抜き出してインデックスを作成するという作業が不可欠ですが、このコピーが違法な複製になってしまうため、日本国内ではできなかったからです。アメリカのような制度だと「このアイデアは形式的には著作権侵害になるが、フェアユースが主張できるかもしれない」と思った起業家は、そのリスクをとった上で事業化を図っていくということもできるわけです。サーチエンジンのための複製は近年の改正でようやく合法化されましたが、その時点で実際の市場シェアは完全に海外に移っており、改正自体が笑劇としか言えないものとなってしまいました。
 なお、フェアユースという言葉は、ここで説明したような限定された意味ではなく、30~50条に規定された権利の制限規定全体という意味で用いる論者もいるため、注意が必要です。

私的な目的での使用

 私的な目的の場合、使用する本人による複製が認められています。「私的な」というのは、個人または家庭内など限られた範囲内においての使用という意味です。これは物理的というよりは社会学的な概念です。例えば家族で楽曲データを共有しているような場合は、それぞれがプレイヤーに入れて持ち運んでいたとしても、私的使用に該当します。一方、自宅兼事務所でやっている人が仕事用に行った複製は、自分自身で使う場合も私的使用ではありません。
 ただし、以下の場合には、私的利用での複製も認められていません。

 1は、ビデオのダビング装置のことを指しています。現在では機材そのものが消えてしまいましたが、規定ができたときは深刻な脅威と捉えられていたのでしょう。もっとも、この規定があるためDVDの時代を迎えてもダビング機が登場してこなかったわけで、無駄な規定とも言い切れません。なお文面上はコンビニなどにあるコインコピー機も含まれますが、これは法の別の場所で、名指しで除外されています。
 2の“技術的保護手段”は、コピープロテクトおよびアクセス制限のことです。
 3は2009年に、4は2020年に追加された項目です。
 3が対象にしているのは、音楽や映像のコンテンツです。2000年代初め、GnutellaやWinnyなどのP2Pソフトが登場したことで、CD音源やDVD映像のインターネットでの無断公開が多発、大きな問題となりました。当時の規定では、無断のアップロードは公衆送信権の侵害として違法な行為でしたが、ダウンロードは私的使用にとどまる限り合法です。そこで、規制に実効性を与えるため、この場合を私的使用から除外して、個人目的のダウンロードも違法化したのです。
 一方、4が対象にしているのは、著作物一般です。この号が追加された背景には、「漫画村」のような、コンテンツの違法な閲覧を目的とするサイトの横行がありました。なぜ単純に3を拡張しなかったのかというと、除外すべきものがあれこれあったからです。例えば、スクリーンショット。新聞雑誌をスクラップするのと同じようにするこの行為が、抵触してしまうことになります。こうした社会的に許容されている使い方を一律の禁止から除外するために、別個に項目が建てられたのです。

 私的な目的での使用は、著作権の自由利用が問題になる場合の中心テーマといえます。「何が違法で何が合法なのか」を判断するための基準ということで、ここがわかっていないと、自分の行為が正しいのか間違っているのかが理解できません。罰則規定(しかも最高刑は懲役10年という、重いもの!)の対象にもなるわけで、すごく重要ですね。にも関わらず、条文の記述は信じられないほどに難解です。たとえば、第30条3・4号の条文はこのようになっています。

 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合
 著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)

 この3・4号は除外規定なのですが、そこからさらに除外される場合が個別に指定されています。それも、条文番号だけで済ませている場合もあり、あるいは逆に条文番号を示して「そこでも同じ意味とする」としていたり。知財分野の第一人者である大学教授をして「ここまで複雑になってくると、私にも意味がわからない」とまで言わせしめるほどの文章となっているのです。こうなると、法案をそのまま通した国会議員たちに一言聞いてみたくなりますね。

 1項1~4号で示されている除外規定は、ある意味技術の進歩を反映していると言えます。
 第1号は、昭和59年の改正で制定されています。貸レコードという業態の登場により、音楽業界は想定外の事態に直面したのですが、さらに貸ビデオ店という業態も登場、家庭用VTRの普及と相まって、急成長してきました。と同時に、本文に書いたようなダビング機も登場してきたため、これへの対応として制定されたのです。なお、コンビニのコピー機に適用される除外規定が書かれているのは、附則第5条の2です。そこでは「当分の間、含まないものとする」と規定していますが、これは、権利管理団体などが整備されるまでの時間稼ぎという意味を持っています。

 第2号は、令和2年(2020年)という、最近の改正で現行規定になっています。それまでは対象として明言されていなかったアクセス制限について、項目全体の見直しを行い、技術的保護手段の中に明確に含まれるようになりました。
 かつて、DVDの複製を正当化する側の立場から、「合法である」という主張がよく行われました。彼らの言葉は「法が禁止している『技術的保護手段』に該当するのはコピープロテクト技術に限られるが、DVDに実装されているCSSという方式はアクセス制限なので、これに該当しない」というものです。現時点ではもうこの主張は通りませんが、改正されたのが最近のことなので、旧規定に基づく言文も目にすることがあると思います。注意しましょう。
 なお、その種の合法論で言われる違法/合法が、あくまでも刑法的な視点からの議論である点には、注意が必要です。罰則規定が適用される場合は、著作権法にも刑法と同じ罪刑法定主義が適用されるため、解釈も厳密になります。しかし、民事的な賠償責任の判断は、そうではありません。それは「不法行為を行った者は賠償責任がある」につきるもので、裁判官は条文の辞書的解釈にいちいち拘束されるわけではないのです。改正前の規定においても、それがアクセス制限であろうが、現実にコピー防止目的で使われている以上、技術的保護手段であると解釈されるものだったといえるでしょう。このような意味での違法/合法のずれは、今後も続くわけですから、誰かがしたり顔で「違法じゃないんだぜ」と言っていたとしても、それは刑法的な意味に限られるかもしれないことに注意を払ってください。

 第3号は、平成24年の改正で追加されています。この背景にあったのは、WinnyやShareのような、P2Pファイル交換サービスの登場です。それまでの公衆送信権では、サーバーにアップされる状態を想定していました。しかしP2Pファイルの場合、サーバーは必須ではなく、対象ファイルは各端末を転々とリレーされていきます。また、中継用にフォルダを公開していれば、特に自身がリクエストを出さなくてもどんどんとパケットが蓄積されていくことになり、それ自体は自動公衆送信における受信に該当しません。そこで、このような規定を設けて、そうして作られたファイルを私的使用から除外しているのです。

 第4号は既出の通りやっかいな条文ですが、括弧書きを全て取り払って外に出してみると、なんとか見えてきます。

 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製を、それが特定侵害複製になることを知りながら行う場合

  • ・ここでいう著作権は、二次的著作物(翻訳以外)のそれを除く。
  • ・自動公衆送信は、国外で行われるものを含む。
  • ・特定侵害複製とは、該当する複製で軽微なもの(部分的複製や低精度など)以外のことをいう。
  • ・録音と録画については、既に他で規定しているから、ここには含まない。

 本文で述べたスクリーンショット以外にも、3号をそのまま拡張した場合の問題点は多数存在します。
 例えば二次創作。趣味として広く普及しており、プロへの登竜門という意味もあって、我が国の創作分野に対して大きな貢献をしています。伝統的には同人誌という紙媒体を中心にしてきましたが、ゲームやCGの方面にも拡がり、またPixivに見られるように、ネット上でも活発に展開されています。とはいうものの、本来は違法性が高く推測される表現物となります。
 また、SNSのプロフィール部分は、多くのユーザーが既存作品の画像を転用していますが、そのちっぽけな画像使用を規制することによるメリットというのは、事実上皆無です。
 こういった使用に何らかの権利調整を図るにしても、3号の規定をそのまま機械的に拡張したのでは、ふさわしい規定とはなりません。
 実は、当初の改正案では、こうした細かい除外規定を設けることのない、包括的な禁止となっていました。それを、関係者の努力によって実現した結果が、この条文なのです。もっとわかりやすく書けなかったのかといううらみは残るものの、規定制定の精神自体は深くリスペクトすべきものと言えるでしょう

公共目的での使用

 公共目的での著作物の自由利用が認められる場合は、個別の条文で細かく規定されています。「公正な利用であれば、委細は問わない」という形ではなく、「これこれに該当する場合を公正な利用と認め、使用を許す」という方式なのです。
 全てを述べていったのでは煩雑になるため、類型的に挙げてみます。

 1でいう図書館での複製は、図書館という機関が自ら行う複製のことを意味しています。3の「試験」は、入試や定期テストの他、資格試験なども含まれます。なお公衆伝達とは、大型のテレビやスクリーンにテレビ放送を映す行為(=パブリックビューイング)のことです。
 これらのうち、1・2と4は無償で許諾も不要、5と6は許諾は不要ですが、著作者には補償金請求権があります。3は、公衆送信に関しては補償金請求権が発生します(2018年改正、20年4月から施行)。なお、無償でできる場合も、「著作権者の利益を不当に害さない」という条件があるため、どんなことをしてもいいわけではありません。例えば教科書に合わせたドリル教材などをクラスの人数分コピーして配ったような場合は、不当に害したことになるでしょう。

 第31条以下では、著作権者にとって権利が制限される場合がカタログ的に並べられています。
 正直なところ、条文のこの部分は、たいへんわかりづらくなっています。特に新しい改正であればあるほど、読まれることなど全く考慮していない、言い訳のための文章としかいいようのないものになっています。私たち国民の権利義務に直結する問題であり、「知財立国」を活かすも殺すもここにかかっていることを考えると、怒りすら感じるほどです。
 本文では類型化にとどめましたが、アドバンスドでは本文の類型に沿ってまとめた上で、個別に説明します。

★図書館での複製や裁判手続きのための複製

・図書館等における複製(31条)
 図書館(その他の施設で政令で定めるもの)では、図書などの複製による公への提供が認められています。

  • 1)利用者の求めに応じ、調査研究用に、著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合(発行後時間のたっている定期刊行物に掲載された個々の著作物については全部でも可)
  • 2)図書館資料の保存のため必要がある場合
  • 3)他の図書館等の求めに応じ、絶版などで入手困難な図書館資料の複製物を提供する場合

 また、国立国会図書館には、滅失・損傷などを避けるための電子化が認められています。
 この条文の主語は「図書館」です。ただ1については、実際には利用者自身が図書館に設置されたコピー機を使って行っている場合が大半でしょう。そこでは、どの資料をどれだけコピーしたかは自己申告制ですし、「本は半分まで、雑誌論文は1本だけ」というように決められるなど、この規定を受けて図書館の側が作ったルール下で行われます。なお、図書館側から著作権者の団体へは補償金が支払われており、その配分は利用者の申告にもとづいて行われています。
 現実問題として、調査研究目的なのか娯楽学習目的なのかは判断のしようがなく、また本当に「半分まで」等のルールが守られているのかもノーチェックでしょう。しかし、法的にはこのような義務があることを、図書館利用時には理解しておくべきです。

・裁判手続等における複製(42条)
 裁判手続のために必要な場合や、立法・行政の目的のために内部資料として必要な場合には、その必要と認められる限度において、複製することができます。ただし、当該著作物の種類・用途・その複製の部数・態様といったものが、著作権者の利益を不当に害することにならないようにしなければなりません。
 なお、次の場合も、ここに含められます。

  • 1)行政庁の行う特許・意匠・商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価、国際出願に関する国際調査・国際予備審査の手続
  • 2)行政庁・独立行政法人の行う、薬事に関する審査・調査、行政庁・独立行政法人に対する薬事に関する報告の手続

・行政機関情報公開法等による開示のための利用(42条の2)
 行政機関などの長は、各種情報公開法令に基づいて、著作物を利用することができます(つまり文書をコピーして渡してもいいということです)。なお利用の方法や除外規定などは、それぞれの法令で決められています。

・国立国会図書館法によるインターネット資料の収集のための複製(42条の3)
 国立国会図書館の館長は、国立国会図書館法が規定する収集のために、必要と認められる限度において、インターネット資料を媒体に記録することができます。また、行政機関等が国立国会図書館法で納本義務を負う出版物を発行した場合、インターネット資料を提供するために必要と認められる限度において、著作物を複製することができます。

★視聴覚障害者のための複製など

・視覚障害者等のための複製等(37条)
 公表された著作物は、点字として複製することができます。記録媒体への記録や公衆送信も含みます。
 また、(政令で定める)福祉事業者は、視覚障害者のために、視覚表現の著作物を音声化して記録・複製・自動公衆送信化することができます。
 ただし、対象となる視覚著作物が、著作権者側で同じ方式による公衆への提供などが行われている場合を除きます。

・聴覚障害者等のための複製等(37ー2条)
 前条の規定を、聴覚障害者のために逆向きにしたのが、この第37条の2の規定です。

★学校など非営利教育の授業で使用するための複製

・学校その他の教育機関における複製等(35条)
 学校での授業過程で使うために、複製することや、それを上演などすることが許されます。

  • 1)その授業を担当する先生や受講する児童生徒によって行われること
  • 2)必要と認められる限度ですること
  • 3)著作権者の利益を不当に害することにならないこと

 この3つが条件です。対象となる学校は、営利目的ではない学校に限られます。
 なお、2018年の改正で、公衆送信についてのみ、補償金請求権が発生することになりました。これは、インターネットなどを利用した遠隔授業の導入を目指してのものです。権利規定を整えることで、積極的な利用を促進する狙いがありました。
 この改正は、法案成立3年後に施行される予定でしたが、コロナ禍による必要性の高まりに応じる形で、2020年4月に前倒しされています。

★試験のための複製、非営利の上演・上映や公衆伝達

・試験問題としての複製等(36条)
 入学試験や検定試験などの問題として複製・公衆送信することができます。
 営利目的でも使用はできますが、その場合は通常の使用料の額に相当する補償金を著作権者に支払わなければなりません。

・営利を目的としない上演等(38条)
 非営利目的で無償で提供される場合、次のようになります。

  • ・上演、演奏、上映、口述が認められます。ただし、実演家などに報酬が支払われる場合は、認められません。
  • ・放送される著作物について、有線放送することができます。また、その放送の対象地域に限定されたものであれば自動公衆送信を行うことができます。
  • ・放送・有線放送される著作物は、パブリックビューイングできます。大型装置だけではなく、通常の家庭用受信装置を用いてする場合も同じです。
  • ・映画の著作物以外は、貸与することができます。
  • ・映画の著作物の貸与は、政令で定められた視聴覚教育施設や聴覚障害者のための福祉事業者でのみ、認められます。
     この場合、著作権(財産権)を行使する者に対して、相当な額の補償金を支払わなければなりません。

★小中高校用の教科書への掲載、学校教育番組での放送

・教科用図書等への掲載(33条)
 小中高校で使われる教科書への掲載が認められています。この場合無償ではなく、著作権者には文化庁長官が決めた補償金が支払われます。

・教科用拡大図書等の作成のための複製等(3条の2)
 障害児教育のために拡大コピーなど必要な方法で複製することが認められています。第33条の主語は「出版社」だけですが、こちらは「先生」なども主語になり得ます。
 全部または相当部分を作成する場合は、オリジナルの発行元に通知しなければなりません。また営利目的の場合、著作権者に教科書の場合と同じ補償金を支払う必要があります。

・学校教育番組の放送等(34条)
 学校教育のために、番組で放送(有線放送含む)や対象地域を限定した自動公衆送信を行ったり、そのための教材に掲載したりすることができます。
 対象となる学校は、学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠した学校です。
 この著作物を利用をする者は、その旨を著作者に通知し、また相当な額の補償金を著作権者に支払わなければなりません。

他の利用のための使用

 著作物として本来の利用を行うことが、権利の一部に抵触してしまう場合があります。こんな時、バランスを図る上で、除外規定が組み込まれています。
 まず、美術品について、いくつかの規定があります。所有権と著作権は別なので、たとえ所有者といえども、著作者に無断で著作権的な利用をすることはできません。しかし、展示することすらできないのだとしたら、そもそも美術品を保有する意味がありませんね。そこで、所有者による展示は自由とされています。さらに、解説や紹介をするための観覧客向け小冊子に掲載することも認められています。また、建築物や公共の場所に飾られている彫刻など、公開の美術品の利用は、そのまま複製するような場合でなければ、広く認められています。レプリカを作れば権利侵害になりますが、写真にとったり絵に描いたりするのは自由なのです。
 プログラムなどについても、コンピュータという道具の特性から、広い範囲で複製が認められています。所有者によるバックアップ目的の複製、実行時に行われるキャッシュ処理(動作速度を上げる目的で行う一時的な保存)、保守点検の過程での一時的な複製、情報解析のための複製などです。
 それ以外では、放送のための一時的保存が認められています。番組の多くは著作物です。放送は電波という無形の媒体上で行われていますが、送信される時点では、物に固定された状態になっています。形式上複製に該当しますが、これにいちいち別個の許諾権を要していたのでは煩雑なことになってしまいます。そこで、放送事業者による放送のための一時的な複製を、著作権の対象外としているのです。なおこうして作られた複製物は、原則として6ヶ月を超えて保存することはできません。

・放送事業者等による一時的固定(44条)
 放送事業者や有線放送事業者は、放送/有線放送のために、著作物の一時的録音・録画ができます。
 この録音物・録画物が保存しておけるのは、6ヶ月までです。ただし、政令で定める公的な記録保存所で保存する場合は別です。

・美術の著作物等の原作品の所有者による展示(45条)
 美術の著作物や写真の著作物の原作品の所有者は、これらの著作物をその原作品によって公に展示することができます。ただし、屋外など公衆の見やすい場所に恒久的に設置することはできません。それをすると次条が適用されてしまい、著作者の利益を害してしまうことになるからです。

・公開の美術の著作物等の利用(46条)
 原作品が屋外に恒久展示されている美術の著作物や、建築の著作物は、次に掲げる場合を除いて、利用することができます。

  • 1)彫刻を増製したり、その増製物を譲渡によって公衆に提供すること
  • 2)建築の著作物を建築として複製したり、それを譲渡により公衆に提供すること
  • 3)屋外の場所に恒久設置するために複製すること
  • 4)専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製したり、それを販売すること
  ★バス車体のペイント画事件

・美術の著作物等の展示に伴う複製(47条)
 著作権者の持つ展示権(第25条)を害することなく美術の著作物・写真の著作物の原作品を展示する人は、観覧者のために、解説・紹介を目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができます。美術展で販売されている図録は、かつてはここでいう小冊子という名目で作られていました。

  ★ダリ事件

・美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等(47条の2)
 美術の著作物・写真の著作物で、所有者など譲渡・貸与の権原を有する人が、譲渡権(第26条の2)・貸与権(第26条の3)に規定する権利を害することなく譲渡・貸与しようとする場合は、見本としての複製の提供や公衆送信を行うことができます。なお、このためには、複製防止・抑止のための措置を講じておかなければなりません。

・プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等(47条の3)
 プログラムの著作物を複製物によって所有している人は、自分が使うために必要な限度で、複製や翻案をすることができます。ただし、所有しているものが違法な方法で複製されている場合を除きます。なお、この複製は、滅失以外の理由で所有権を失った場合は、複製物を保存しておくことはできません。

・電子計算機における著作権の利用に付随する利用等(47条の4)
 コンピュータの効率的な利用にあたっては、複製に類する行為が行われる場合があります。例えばキャッシュ処理がそうですし、またネットワーク上では更に大規模な一時保存も行われます。この条文では「著作権者の利益を不当に害することがない」という留保付きで、それらを認めています。また、記録媒体内蔵複製機器の保守・修理を行う場合には、そこに記録されている著作物を、必要と認められる限度において、一時的に記録することができます。この場合は、終了後の保存は認められません。

・電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(47条の5)
 ニュービジネスに対応した除外規定です。例えばビッグデータの収集やGoogle型のサーチエンジンが行う複製などを想定しています。条文には、とてもここには書ききれないような「除外の除外」が細かく入り組んだ文で規定されていて、ほとんど悪夢のようなものとなっています。
 なお、旧法では、これらの内容は47条の6~47条の9で規定されていましたが、2020年の改正でここにまとめられました。

・翻訳、翻案等による利用(47条の6)
 著作物が、これらの制限規定によって利用可能な場合に、翻訳・翻案・変形なども併せてできるものについて、個々の条文番号でリストしています。

・複製権の制限により作成された複製物の譲渡(47条の7)
 著作物が、これらの制限規定によって複製可能な場合に、その複製物の譲渡も可能なものについて、例外規定も併せて、個々の条文番号でリストしています。

引用と転載

 他人の著作物を、自分の著作の中で部分的に使用することを、引用といいます。著作権法では、次の条件で認められています。

  • 1)出所が明示されている
  • 2)方法が公正な慣行に合致している
  • 3)報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内

 例えば、小説を書いた人が、単に挿絵として使う目的で美術作品を“引用”したりすることは許されません。3に反しているからです。とはいえ、この意味で正当化されるものなら、文章の著作物の中にマンガの一部を引用するようなことも許されます。
 なお、「公正な慣行」として通常求められることは、次の3点です。

  • ・引用部分とそうでない部分をはっきり区別する。
  • 必要な範囲に留める。
  • ・要約する場合は、意味を損ねないようにする。

 具体的な方式などは、それぞれの領域の慣行に委ねられています。分量も特に決まりはありません。学術書ですと、延々数ページにわたる引用などもしばしば見られます。
 引用は、する側にとっては権利です。思想良心の自由や報道の自由など、精神的自由権と直結しているからです。裏返せば、これを甘受することも、著作者としての義務になります。ときおり「無断引用を禁止します」などという表記が見られますが、法的には全く意味のない宣言です(とはいえ引用の意味を勘違いしている人相手には、有効なメッセージではありますが)。
 なお、引用と近い概念に「転載」があります。これは、発表された著作物の一部または全部を別の媒体に掲載し直すことです。無許諾での転載は、官公庁が著作者となる文書以外では認められていません。たとえ引用のつもりでやったことでも、度を超せば「無断転載」とされ、著作権の侵害となってしまうため、注意が必要です。

  ★脱ゴーマニズム宣言』事件
出所が明示 48条で細かく規定されています。

・引用(32条)
 引用の条件としての「公正な慣行」は、分野によってかなり異なります。統一的な量的基準もありません。一部分野の学術書などでは延々数ページにわたって引用されている場合もありますが、その分野で慣行として成立している以上、これも合法です。
 逆に、短くても要許諾という慣行もありえます。例えばコミック作品の中に歌詞が出てくると、たとえどんなに短いフレーズであっても「JASRAC許諾番号XXXX」が欄外に書かれています。これは音楽著作権管理団体であるJASRAC(日本音楽著作権協会)が、どんなに短い場合でも無断使用を許さないからです。内容的には必ずしも正当な引用が認められない例ばかりでもないのですが、何十年もそれを続け、出版業界も漫画家も対応している以上、これもまた公正な慣行と言えるでしょう。
 SNSや各種掲示板などでは、よく出版物やテレビの画像をコピー&ペーストしているものを見かけます。無断であることはほぼ間違いありませんが、引用の基準に照らして考えた場合、実は常に違法であるとは言い切れません。というのも、情報を交換し意見をたたかわせる場という側面を考えた場合、そこへの書き込みは、報道なり批評なりの目的であるとみなせるからです。問題は公正な慣行ですが、現状では無段改変の画像なども渾然と載っている状態ですから、確立されているとは言い難いでしょう。

・時事問題に関する論説の転載等(39条)
 新聞・雑誌に掲載して発行された政治・経済・社会の時事問題に関する論説(学術的なものを除く)は、禁止する旨の表示がある場合でなければ、他の新聞や雑誌への転載・放送・地域を限定した自動公衆送信を行うことができます。

・政治上の演説等の利用(40条)
 公開で行われた政治上の演説・陳述や、裁判・行政審判手続での公開の陳述は、誰もが利用することができます。これも、権利のバッティングを調整する規定ですが、対向するのは憲法上の権利です。方法は問いませんので、全文だけでなく、翻案や要約という形も認められます。ただし、一人の著作者のものを編集して利用する場合(つまり、個人演説集のような形にまとめるということ)は、許されません。
 また、国などの行政機関で行われた公開の演説・陳述は、報道の目的上正当と認められる場合に、新聞/雑誌/放送などの手段で報道することができます。

・時事の事件の報道のための利用(41条)
 写真/映画/放送などで時事の事件を報道する場合、事件を構成するか、事件の過程において見聞きされる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において利用することができます。この場合は、非公開の著作物も対象です。

・翻訳、翻案等による利用(47条の6)
 各条文で認められた自由利用には、翻訳や翻案もできる場合があります。条文番号を引用する形で、まとめられています。

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