みんなの著作権 第3部 判例ガイド 編集著作物/データベース著作物
「知恵蔵」事件
1999.10/28 東京高裁 平成10(ネ)2983号
ブックデザイナー鈴木一誌が、年刊の用語集「知恵蔵」について、版元の朝日新聞社を、ブックデザインに関する著作権を侵害したとして訴えたもの。
原告は「知恵蔵」の創刊に請われて参加、レイアウトフォーマットを作成し提供した。翌年も契約に基づいて同一フォーマットが使われ、使用料の支払いもあった。だがその翌年、被告側から契約終了を告げられ、あわせて「レイアウトはそのまま使用したい」旨の申し出を受けた。原告は拒絶したが、被告は同じフォーマットを使用し、「知恵蔵」の発行を続けていた。
裁判所は、対象となっているレイアウトフォーマットについて、「実体としてはレイアウト用紙に書かれた文字組指定に過ぎない」として著作性を認ず、著作権侵害を否定、訴えを退けた。
NTT「タウンページ」事件
2000.3/17 東京地裁H8(ワ)9325号
職業別電話帳「タウンページ」を紙媒体とCD-ROMのそれぞれで作成しているNTTが、独自の電話番号情報のデータベースを運用しているY社に対し、「そのデータベースは、タウンページ(CD-ROM)に依拠しているから、データベース著作物の権利を侵害している」として、差止めと件数あたりで計算した損害賠償を請求した事件。NTTは、(1)独自の職業分類による体系的な構成、(2)分類の当てはめにノウハウをつぎ込んでいる、(3)掲載名に工夫を施している、(4)随時見直しを行っているの4つの根拠から、タウンページに編集著作権とデータベースとしての著作権があることを主張した。
裁判所は、これらのうち(1)のみを認め、データベース著作権を認定。ただし「データには著作権はない」とし、件数あたりで計算した損害賠償は認めなかった。
「ケイコとマナブ」事件
2004.3/30 東京地裁H15(ワ)285号
情報誌「ケイコとマナブ」を発行するリクルート社が、見出しや情報の配置などがと一致する情報誌を発行するY社に対して、編集著作権の侵害を主張した事例。リクルート社は、情報の分類・配列に工夫を凝らしてきたことを理由に「ケイコとマナブ」の編集著作権を主張。
裁判所は、編集著作権を「具体的な編集物に具現化された編集方法を保護するものであって、具体的な編集対象物を離れた、編集方法それ自体をアイデアとして保護するものではない」とし、「ケイコとマナブ」が編集著作物であることは認めたものの、原告の主張そのものは「データベース著作物との混同であり、失当」として認めなかった。
「著作権判例百選」事件
2016.11/11 知財高裁 平成28(ラ)10009号
東京大学教授の大渕哲也が、「著作権判例百選第5版」を刊行した有斐閣に対し、編集著作権の侵害であるとして、出版差し止めの仮処分命令を求めた事件。
同書は、法学教育で用いられる代表的な参考書の一つで、法領域ごとに多数のシリーズが刊行されている。内容は、各領域の代表的な判例について、学者や法曹などの専門家が紹介し解説を加えるというもの。記事ごとに執筆者の名前が挙げられている他、表紙に複数の学者の氏名が「編」として掲げられている。訴え主は第4版においてここに名を連ねていたが、第5版では外されていた。
このような事情のもと、訴え主は「自分は第4版に対して編集著作権を有している。そして第5版は第4版の翻案であり、無断で作られた同書は翻案件の侵害である」と主張。一審ではこの訴えを認め仮処分を認める決定が下ったが、相手方が不服として保全抗告を申し立てていた。
裁判所は、「編集方針の決定」「創作性のある、素材の選択・配列」といった行為を行った者は編集著作権の主体となるとした上で、訴え主は編集会議で原案に対して賛否を表明する程度のことしかしておらず、実質的にアドバイザーにすぎないと認定、訴えを退けた。